18〜eighteen〜
放課後に携帯を見た。
私がメールを送った一時間後に先生からのメールがきていた。
字数制限が本当になくなるかどうかのテストメールで、
制限は本当にされていなかった。
その他には、読書が好きなったきっかけについて書かれていた。
ある本がきっかけとなったそうなのだが、
それが私と同じだったので、正直驚いた。
私もその本のおかげで、文学に興味をもったのだ。
そこまでは文学について共感しながらメールを読んでいた。
しかし、メールの最後を読んで冷静でいられなくなった。
一つ先生からの希望がかいてあったのだ。
YU−NAさんの素性を教えてほしいという。
本名や携帯が知りたいわけではなく、人に小説を読ませることは恥ずかしく、
非常に勇気がいることだから。
私がリンクで飛んできたとメールしていたから、友達の友達にあたる人なのかと聞かれた。
…また問題にぶつかってしまった。
小説を読むための手段がない。その手段を見つけたのに今度は…。
私が生徒であることは絶対にいえない。
素直に明かしてしまえば、私は塾にいられない。
先生の授業はこのまま受けていたい。
でも素性を明かしてほしいと言われた。
このままメールを返さずにほうってしまおうかと思ったが、
そうしてはいけないという自分がいた。
私から小説が読みたいとわざわざ字数制限がなくなるようにしたのに、
それを今さら逃げるなんて卑怯だ。
私は考えに考えた末、ある結論に達した。
素性は明かさない。
そして、これからずっと正体は黙り続けていよう…と、
かたく心に誓った。
私は素性を明かしたくないというメールをした。
素性を明かさないで、先生の小説を読むのはさすがに悪いと思ったので、
『素性の分からない人に小説を読ませるということが
嫌悪感を抱くことであれば小説はいいです。』
そして最後にこうつけ加えた。
『でも読者を探してるといったからには、それなりの覚悟があったのでは?』
こんな言い方は失礼だと思ったが、
読者を探してるといわれた時、先生はYU−NAについて
ほとんど知らなかった。
それでも読者になってほしいともちかけられた。
素性を知らない上で、そうもちかけてきたのだ。
もし、素性を知ってから小説を読んでもらいたいのであれば、
読者になってほしいというより素性について聞く方が先ではないか?
私はこう考えたから多少失礼だと思っても書いたのだ。
その日の夜中1時半に、先生から返事がきた。
私が失礼だと思いながらつけ加えた一言には堪えました…とあった。
『いつの間にか逃げ腰になっていたようです』と逆に反省されてしまった。
素性に関しては、一切明かさなくていいそうだ。
気がむいたら教えてくださいとのことだった。
ほかの人には一切見せないという約束のもと、
私は先生の小説の読者になった。
小説は毎日1部ずつ送られてきた。
先生の仕事柄、メールはいつも夜中のだいたい1時半頃のきた。
私は先生のメールがくるまで、勉強を頑張ることにして、
メールがきたら眠るという生活になった。
私はつまらないと思う小説は数行で読むのをやめてしまうのだが、
先生の小説はそうではなかった。
ひきこまれて、すぐに読んでしまった。
もしかしたらそれは、『先生の小説を読んでいるから』
なのかもしれなかったが、
話の続きが気になるのも事実だった。
そして私は、1部ずつ読むごとに感想のメールをした。
そうやって小説を楽しんでる半面、塾に行くと後ろめたくてしょうがなくて、
先生に会う度に罪悪感が重くのしかかってきた。
何食わぬ顔で授業を受けている。
楽しみだった先生の授業が、苦痛に感じてしまうこともあった。
でも、小説が終わってしまえばメールのやりとりも終わる。
それは残念なことだけど、仕方がないこと。
だからそれまでは、何も知らないフリをして、
このやりとりを続けていたかった。
そして最終部が送られてきた。
今日で最後か…と思いつつ、メールを読んでいた。すると、
『YU−NAさんとのメール交換は本当に良い息抜きになります。
小説は今日で終わってしまいますが、一日も長くメールの交換が続くことを
祈っております。』
とあった。
私と同様、メールのやりとりを続けたいと思ってくれた。
それがすごくすごく嬉しかった。
自分で気持ちが制御できなかった。
こうして、先生とYU−NAとしての私とのメールのやりとりが始まった。
真夜中のメールは私の楽しみとなったのであった。
メールのやりとりは受験勉強の息抜きとなり、
私の支えとなった。
仕事から帰ってきた先生がメールするまでは、
私も勉強を頑張る。
メールがあるから遅くまでの勉強も頑張れた。
メールではいろいろなことを話した。
その日あったささいなことや、今まで読んだ本のこと。
私が受験生であることも話したので、受験勉強についての話もした。
たまに先生は仕事の話をしてくれたりした。
授業がうまくいかなかったと落ち込んだりしている時もあった。
もともと先生は、生徒に対して一生懸命になる人だったけど、
ここまで考えてるのかぁと思った。
生徒の私としてはやっぱり嬉しいことだった。
ただ、その分先生が疲れているというのが心配でしょうがなかったので、
できる限り励ますように努めた。
でもこうしていても、先生をだましているという事実にはかわりはなかった。
黙っていることがつらかったが、言わないと決めたし、
言えるわけがなかった。