18〜eighteen〜


 先生とのメールのやりとりが終わった。
やはりYU−NAさんの気持ちに気づいた以上、
メールを続けるわけにはいかないということ。
元彼女とはよりを戻すという話にはならなかったが、
ここでは意味をなさないということ。
私がメールしたことについてはべつに怒ってはいない。むしろ、
YU−NAさんからのメールに助けられて、感謝していたくらいだということ。
これまでのようなやりとりは難しいかもしれないが、
メールをいただければ返信するということと、
最後までYU−NAさんが誰かわからなかったこと。
そんな内容のメールが先生からきた。
先生が何か動いてくれるんじゃないかと、私は少し期待していた。
どう動くのかと問われると具体的には言えないが、なにかしら…。
『YU−NAさんからメールのやりとりをやめましょうといわれたら、
普通に傷つきますけど』
と前にいってくれたくらいだったのに。
こんなに長く続いたメールのやりとりを、
こんなにもあっさりとやめてしまうことができるの? 
しかし、完全に終わったわけではなかった。
合格したらご一報くださいと最後の一行にあった。
先生が何をどう考えているのか、
一文一文にどんな意味が込められているのか、
何度読んででもわからなかった。
私の中ではかなり中途半端で、もやもやしていた。
どちらにしても2ヶ月ちょっと続いたメールのやりとりは、
この日で終わってしまった。

 それから私の中では、ずっと夜が続いた。
太陽が昇り、朝がきても私は夜から抜け出すことができなかった。
どうすればいいのか考えても、どうすることもできなくて、
気がつくと目には涙でいっぱいだった。
塾で先生に会うのがつらくなった。
今までは、会う度に嬉しくてしょうがなかったのに。
先生は何事もなかったかのように、私に接してくる。
そんなの当たり前だけど、つらくてつらくて仕方がなかった。
もう何も考えられなくなって、何もできなくなった。
私の中にあったものは全てどこかに消えて無くなり、
からっぽの状態だった。
自分が何をしているのか、生きているのさえ意識になかった。
それでも夜になると意識は戻り、くるはずもないメールを待っていた。
先生からの最後のメールを何度何度も読んだ。
私の時間はずっと止まったままでいた。
あとからあとから涙が流れだして、自分じゃどうすることもできなかった。
何も考えられない状態のまま、ただ泣き続けるだけの夜が何日も何日も続いた。
眠ることが全然できなくて、体力的にも精神的にもぼろぼろだった。
もちろん勉強になんか手につかなかった。
たとえ塾で授業を受けたり、自習室で勉強していても、
集中していなかったし、身にもはいっていなかった。
私はその場にはいなかった。
全ては終わっていた。

 そんな状態が何日も続いたある日のことだった。
ある考えが私の脳裏をよぎった。
正体を明かそう。
できることなら、そんなことは絶対にしたくなかった。
でも私は先生を騙し続け、あんなカタチでやりとりを終わらせてしまった。
先生と元彼女のことが何より気になってしまい、
結局自分のことしか考えていない私に気づいたのだ。
自分のことに精一杯で、先生のことを考えていなかった。
考えないで騙し続け、メールし続けた。
そのことにものすごく罪悪感を感じ、自分を責め続けた。
先生に会う度に、後ろめたくてしょうがなかった。
私の心は決まった。
正体を明かして、謝って、それで私の想いを伝えよう。
どんな結果になっても構わない。
ただ言ってしまえば、最後まで授業を受けようとしている私にとって、
塾には確実にいづらくなる。
先生は塾に週3回来ていたので、先生の授業を取り消すというだけではすまされない。
先生に会わないようにするためには、他の授業も取り消さなければならない。
それは嫌だった。
私が行っている塾に行けなくなってしまうことは、
私の生活の一部分が欠けてしまうのと同じことだった。
塾で会える友達や他の先生方の授業を受けることは、
とても落ちつける、欠かせないことであった。
これまで先生に告白できないでいたのは、これも問題の一つであった。
今まで何度も何度も先生に告白しようとしたが、これからのことを考えると
どうしても言えなかった。
でも、今はそんなことどうでもよかった。
これから先のことも、理性とか羞恥とか全て関係なかった。
先生は迷惑がるかもしれない。
それでも私は伝えたい。
このどうしようもない今の私をさらけだしてまで、私の想いを伝えたい。
それしか頭にはなかった。
でもいざになるとなかなか言いだせなくて、タイミングを逃してばかりだった。
やっぱりはやまってるのではないかと迷い始めていた。

 「メールをしてみたら?」
私の状態を見かねたある友達が、そう助言した。
今自分はこういう状態でつらいから、私としては直接謝りたいのですが、
どうしたらいいですかと先生にメールで相談してみては?という提案だった。
確かに事が事なだけに、もし公になってしまえば先生の立場も危うい。
私の独断だけで決めてしまってはいけないだろう。
冷静になっていろいろ考えた結果、私は二週間ぶりに先生にメールした。
私の現状を話し、直接謝りたいと申し出た。
今まで何食わぬ顔をしてきたくせに何を今さらとも思うが、
このまま黙っているのは卑怯だと思うし、
自分的にもすごく許せないからだと。
先生は察していたかと思うが、私が生徒であることをこの時に初めて告げた。
私が話したところで確実にすっきりする保証はないし、
逆に先生の方がつらくなってしまうかもしれない。
すごく怒ってしまうかもしれない。
それでも私は今すごくつらいから、話してしまいたい。
自分がしてしまったことをどう処理していいのか分からずにいます。
そんな内容のメールを送った。
その日の夜中、先生はきちんと返事をくれた。
私が事実を隠してメールをしたことに関しては怒っていないので、
罪悪感を感じる必要はないと。
正体を明かすかについては、受験後にしてほしいという先生からの希望だった。
でもどうしても言いたいのであれば、それはそれで構わないと。
YU−NAさんにお任せしますが、それでも迷うようでしたら
先生の希望通りにしてほしいとのことだった。
先生のそのメールを読む度に、冷静になっていくのがわかった。
それまで悩んでもやもやしていたのがうすれていき、
悪夢からやっと目覚められたようだった。
私の中からなくなったものを徐々に取り戻すことができた。
この場にもようやくいられるようになった。
私はやっと朝を迎えることができたのだった。



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