if…
スバルとのことがあって、ユイナさんと会うかどうか迷っていたが、
やはりきちんと話すべきだとメールをした。
都合のいい日に会えませんか?と。
すると、明日の昼休みの合い間だったらいいという返答だった。
そういう訳で、私たちは次の日、
病院近くのカフェで会うことになった。
私は昼休みになって急いでそこに向かった。
中は結構広く、カウンターが中心になっていて、
180度だけガラス張りになっていた。
差し込む光が店内を明るくしていた。
ユイナさんは既に来ていて、
ガラス張りになっている近くの席に座って、コーヒーを飲んでいた。
彼女が目にはいった途端、足がすくんでしまった。
おそるおそる声をかける。
「あの…おまたせしました」
私の声に気がついてこちらにふり向く彼女は、
少しやつれた印象を受けた。
何も言わず、冷ややかな笑顔を向ける。
私はユイナさんの前に座る。
水を持ってきた店員にコーヒーを頼んだ。
何からどう話していいのかわからない。
彼女から話しをしようという気配は全くなかった。
「ごめんなさい…謝ってすむ問題ではないけれど…
本当にごめんなさい!!」
私は謝るしかなかった。
ユイナさんは黙って持っていたカップを下に置いた。
その音が私をビクつかせる。
そこへ店員が頼んだコーヒーを持ってきたので、
二人の間に流れていた空気が途切れる。
そして店員が去ると、またもとに戻る。
カフェ内の雑音だけが耳に入る。
人の話し声。食器類がだす音。
私たちのところにだけ、音はない…。
しばらくして、ユイナさんが口を開ける。
「…いつかこうなることはわかっていた…」
私はユイナさんの顔を見る。
彼女は窓の外の遠くを見つめている。
見つめているのは…過去かもしれない…
「悔しいけど…ナツキが現れなくても、私たちはきっとうまくいかなかった。
私だけの一方通行…それでもいつか変わるって期待していた」
彼女はコーヒーを口にしてから、さらに続ける。
「スバルが私にプロポーズしたら、正式に結婚が決まることになっていたの。
でも彼はなかなか言ってくれなかった…。
それどころか、私のこと『好き』だとか…
そんなの一度も心から言ってくれたことはなかった。なのに…」
ユイナさんの目にうっすら涙がうかぶ。
「なのに…土曜日、あなたとのこと話してくれた時、
私、問いつめたの。『ナツキのことが好きなんでしょう!?』って。
そしたら彼、あっさり認めたのよ。だから婚約を解消してほしいって。
ナツキにはフジサキさんがいるって言ったのよ?
それでも聞いてくれなかった…あんな彼は初めてだった」
その話を聞いて、正直嬉しい部分もあった…でも、
それを話しているユイナさんが痛々しくて見ていられなかった。
その原因は…私。
「ナツキはフジサキさんとって思ってたのに…
二人とも同じ気持ちだったのね。
うすうす気づいてたけど」
「ユイナさん、私…」
「何も言わないで」
謝ろうとした私を彼女はとめた。
もう私に「ごめんなさい」も「ありがとう」も、
何も言わせないつもりだ…。
「正直、あなたのことがとても憎い。
スバルを私からとったあなたが…」
ユイナさんは私を恨みをこめた目で見る。
「個人的にはあなたのことが好きだった。いいお友達でいられると思ったわ。
だけど、もう二度と会いたくない」
ユイナさんはポケットから小銭を出し、
テーブルの上に置いて席を立った。
私は何も言わないで、うつむいたままだった。
ユイナさんが私の隣で立ち止まった。
「でも…きっといつまでも同じじゃないわ」
私はユイナさんを見た。
彼女はさっきとは違う、
あたたかみのある笑顔を私に見せて行ってしまった。
私は頼んだコーヒーを口にふくんだ。
彼女を傷つけてしまったことに嫌悪感を抱き、
立ち直ろうとしている…気持ちを切りかえようとしている彼女に感謝の念を抱いた。
きっとくる…。
またお互いに笑って出会える…その日が…。
私とスバルのことをサキちゃんにはもちろん報告した。
少女はとても喜んで、大はしゃぎだった。
照れたけど、私たちのことをこんなにも喜んでくれる子がいると、
なんだか嬉しくなった。
スバルとはあれから、同棲生活に近い毎日を送っている。
私はほとんどスバルの家で、朝をむかえ、夜をむかえる。
スバルは夜勤があったりして、たまに家に帰ってこないこともあり、
そういう時は私一人で夜を過ごした。
寂しかったけど…寂しくなかった。
いつでも、心は彼と一緒だった。
それに、望めばいつでも彼と一緒にいることができる。
彼は私のために時間をつくってくれるし、
私も彼のために時間をつくる。
お互い、時間を共有するために…
今までの空白の時間を埋めあうように…。
これまでのことをお互いにしゃべり続けた。
大学でのこと、友達のこと、付き合った人のこと、仕事のこと…
あらいざらい話した。
全てを打ち明けた。
ささいなことが幸せで、これ以上ないくらい幸せで…
彼のそばにずっといたいと思った。
そんな夢のような毎日を過ごしていたある日のことだった。
私のもとに一通の手紙が届いた。
『もう何年も会っていないけれど、お元気ですか?
突然の手紙で、驚かれたと思います。
長い間連絡何一つしなかったのに、今さらこんな形でごめんなさい。
実は一つ知らせたいことがあって、こうして手紙を書くことにしました。
本当はどうしようかすごく迷ったんだけどね。
この度、私は結婚することとなりました。
詳細は、同封した招待状に記載してあります。
ぜひ、ナツキには出席してほしいというのが私の希望ではありますが、
ナツキ自身の意思にお任せします。
もし出席してくれるのであれば、式の前に一度あなたに会いたい。
私の家に訪ねてくれると幸いです。
今はだいたい家にいる時間が多いので、
ナツキの都合がいい時に来てください。
それでは。』
そして、その下には家までの行き方と簡単な地図があった。
この手紙は私の実家に送られてきたもので、
母親が私のもとに送ってきてくれた。
差出人の名前は『タカサキ ユウ』。
忘れもしない。高校の時の親友『ユウユ』だ。
彼女にも卒業以来会っていなかったし、
音信不通のままだったので、
こうして手紙が来たことに驚き、また嬉しかった。
私は同封されていた招待状を見た。
そこにはさらに驚くべきことが書かれていた。
ユウユの結婚相手は…
『イイダ カツヨシ』…そう、『カツ』のことだ。
私は一瞬目を疑ったが、何度見ても同じだった。
大学に行って、二人は海外留学をしたというのは耳にしていたが、
なにがどうしてこうなってしまったのか…
私には想像もつかなかった。
「え?じゃあスバルの所にも?」
スバルと夕食をしている時のことだった。
ユウユから手紙がきたことを話してみたところ、
彼の所にもカツから手紙がきたといった。
「あの二人が?って、始めは驚いた」
「私も…それでね、私、行ってみようと思うの」
「タカサキの家にか?」
「うん…せっかく手紙くれたんだし…スバルも行く?」
「いや、俺はいい。
イイダの手紙には謝罪と報告しかなかったしな」
自分が招きを受けていないことに少しふてくされながら彼は言ったので、
私はくすっと笑った。
「じゃあ今度の日曜に行ってくるわ。
そんなに離れたところじゃないし」
「あぁ、いっといで」
スバルはにっこり笑って同意してくれた。