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日曜日。私はユウユの家に向かった。
スバルの家がある駅からちょうど10駅離れたところで、
電車一本で行くことができた。
手紙に書かれている地図通り歩いていくと住宅街に入り、
しばらくいくとユウユの家に着くことができた。
そこは一軒家で、表札は『イイダ』となっていた。
つまり、もう二人は同居してるということが推測できる。
私がチャイムを鳴らすと、「はい」と声が聞こえた。
「カタヤマですけど…」
そう答えたが、何の反応もなかった。
間違えたのかと慌ててしまった次の瞬間、
ガチャリと勢いよくドアが開いた。
「ナツキ…!?」
目の前に現れた一人の女性。
ジーパンに白いニットを着て、
腰まわり部分だけの短いエプロンをしていた。
「ユウユ?」
すっかり大人びて綺麗になってしまい、風貌に変化はあったが、
昔の面影はどことなく残っている。
ユウユその人に間違いなかった。
「嬉しい…!来てくれたのね!!さ、あがって」
ユウユは満面の笑みを浮かべながら、
私を中へと招きいれ、リビングに案内した。
「そこのソファーに座って、今お茶いれるから」
私は言われた通りにした。
ユウユはお茶の用意をしながら言う。
「まさか来てくれるとは思ってなかった…。
ずっと音信普通だったし」
私の前にやってきて、
目の前のテーブルにお茶やお菓子を並べる。
「それに…あれ以来だったし…」
彼女が顔に陰りを見せる。
ポットからカップにお茶を注ぐ音が静かに響く。
「…今でもね、後悔することがあるの。
なんであんなことしちゃったんだろう…って。
子供染みた嫉妬と独占欲に駆られて、その結果皆を傷つけてしまった」
ユウユはお茶をさしだし、目の前のソファーに座った。
「あの時は…すごく傷ついたけど、
それだけ皆が4人を壊したくなかったんだってよくわかったから。
あれは連帯責任だと思ってる」
私はそう言って、入れてもらったお茶を口にする。
一息ついてから続けていった。
「あれから皆と音信不通になって…すごく寂しかった。
こっちから連絡しようと思っても、その勇気すらなくて」
「え…?ちょっと待って?」
ユウユが怪訝な顔つきで身を乗りだしてくる。
「皆と音信不通って…スバルとも?
告白したんでしょ?」
「うん…したよ。…ふられたけどね」
それを聞いたユウユは肩の力を落としたようにソファーの背にもたれ、
ぐったりと身を任せた。
「あぁ…私はてっきり…
やっぱりあんなことするんじゃなかった…
ごめんね。本当にごめん」
自分を責めている彼女に私は現状を話そうとしたが、
彼女が話すほうが早かった。
「私たちね…私たちは卒業してからお互いの過去を思い出したくなくて、
会わないようにしてた。連絡も一切とらなかったし。
でもね、しばらく留学してこっちに戻ってくる時だった。
偶然帰りの機内で彼と会ったのよ。
あまりにも久しぶりだったから、過去のこととか吹っ飛んだわ。
それから連絡とるようになったのよね」
私はお茶を飲みながら、黙ってユウユの話を聞いていた。
スバルと私が偶然の再会を果たした傍らで、
彼女たちも同じような再会をしていたのだ。
「なんでこんな風になっちゃったのかわからないけど…
でも自然な流れだと思ってる。
この結婚は彼が相手で間違いないって、なぜか確信が持てるのよね」
ユウユはしっかりとした目つきでいった。
そんな彼女の姿をうらやましく思った。
たぶんヨウと結婚を決めていたら、
こんな自身を持った気持ちではいられなかったと思う。
「…やだ!ごめんね、変な話しちゃって…」
「ううん。
もともと二人はどこか同じ空気を持つっていうか…
気が合ってたと思うところがあるから、すごくお似合いだと思う」
私がそう言うとユウユは照れた。
「やだ!?そう?ありがとう」
私がお茶をまた口にしようとすると、彼女が顔を覗きこんで聞いてきた。
「…ナツキは?今、付き合ってる人とか…」
飲もうとしたのをやめて、カップをテーブルに置いた。
「あ…うん、そのことなんだけどね。
今、付き合っている人がいるの」
「本当に!?会社の同僚とか?大学時代の人とか?」
「…お医者さん。高校の時の同級生」
ユウユが一瞬固まる。
「え…それって…」
「うん。私、今はスバルと付き合ってるの」
私はにっこり笑った。
「うそ!?だってさっき…」
彼女の驚きとそのあわてぶりを見ていて面白かった。
「高校の時は、私がふられて終わったんだ。
それからずっと音信普通になったし。
でもこの前偶然再会してね…ユウユたちと一緒ね」
彼女はあっけにとられていた。
「なんか…こんなことってあるのね…」
「そうね…」
二人は感嘆の声をだした。
その後、私たちの会話は弾み、また昔のように戻った。
いろんなことがごちゃごちゃする以前の…仲の良い二人に。
あんなことあったけど、ちょっとやそっとじゃ壊れない。
壊れたりしない、私たちの友情。
過去のことリセットできないけど、
ありのままを受けとめて、過ちをふまえて、
新しい二人の関係を築こう。
ユウユが微笑む。
私も微笑む。
こんなあたたかな空気の中で、
すれ違いや今までのズレがみるみる修復されていくようだった。
私の大切な友達…――
やっぱりまた、仲良くしていきたい…
心からそう思った。
そうして午後のひとときはあっという間に過ぎてしまった。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
私は時計を見てそう言った。
そろそろ6時になる頃だった。
「ごめんね、なんだか話しこんじゃって…」
「ううん。久しぶりで楽しかった」
ユウユが玄関まで見送ってくれた。
「あの人にも会わせたかった…でも今日たまたま仕事があるからって…」
「そっか」
私は靴を履きながら答えた。
「あのね…ナツキ」
「ん?」
私は顔をあげてユウユを見る。
「こんなこと…ホントに都合よくて申し訳ないんだけど…」
彼女は言い出しづらそうに、一つ一つを言葉に発していく。
私は相槌をうちながら聞いていた。
「今日ナツキに会えて、話せてすごく楽しかった…嬉しかったの。
だからこれからも友達として、仲良くしてほしいの」
彼女はとても不安げな顔で私を見た。
私は自分の鞄から一枚の紙を出して、ユウユの目の前に差し出した。
「…これ…」
彼女はそれを見て驚く。
私は静かにうなずいた。
私が手にしていたのは、
ユウユから送られてきた結婚式の招待状だった。
そこには出席に丸をつけ、『致します』と下に付け加えておいた。
ユウユはゆっくりとそれを受け取った。
「私もね…ユウユと同じこと考えてた。
またこうして楽しい時間が過ごせたんだもの…
これからもやっていけるわ」
私はにっこり笑って、彼女の握手を求めて手を指しだした。
ユウユは感極まった様子で、
靴も履かないまま段差になっていたところを下りて、私に抱きついてきた。
「ユウユ…靴は…」
「いいよぅ、そんなの…」
私たち二人、少しの涙といっぱいの笑顔で抱きしめあった。
体も心も…とてもあたたかく、満たされた気分だった。
まさか、こんなことになると誰が予想しただろう…。
こうしてまた彼女に会うことができ、
そしてこうしてまた友情をつなぐことができるなんて。
このことを早く…早く彼に報告したかった。
スバルの家に行き、私はユウユとのことを一部始終話した。
彼はもちろん嫌な顔一つせずに聞いてくれた。
「よかったな…」
「うん。私、本当に嬉しいの」
「おまえの顔見てればわかる」
彼の言葉に思わず照れてしまう。
「スバル、結婚式には…?」
「もちろんでるよ」
私はその答えを聞いて、安心したように笑った。
「…飲むか?」
「うん」
彼はそう言うと椅子から立ち上がり、ワインとグラスを持ってきた。
私は彼のグラスと私のグラスにワインを注いだ。
そして二人で乾杯をし、ゆっくりと飲む。
「…なんか、俺たちってさ…」
「ん?」
「俺たち四人は遠回りし過ぎたな…」
スバルが言ったことに、私は「うん」と小さく答える。
「きっと最後に行き着くところは現状なんだと俺は思ってる。
それまでずいぶんかかったな…」
「そうね、8年はかかったわ」
「そんなにか…」
目の前にいる相手をお互いに見て、
引き寄せられるかのようにテーブルから身を乗りだすようにして近づいた。
スバルが私をじっと見つめながら手で頬に触れてくる。
私は恥らうように視線をそらしながらも、彼を見た。
頭が真っ白になるくらい、何も考えられなかった。
お互いの唇が触れる。
「今夜も泊まってくだろ?」
彼が言う。
「うん」
最近はスバルの家から出勤することがほとんどだった。
「じゃあ、夕飯食うか?まだだろ?」
「うん」
でも夕飯の準備にとりかかるのは、
それからしばらく経ってからのことだった。