if…
ユウユとの再会を果たした二ヵ月後。
彼女とカツの結婚式が教会で静かに行われた。
本当にごく少数の人しか呼ばれない、内輪なものだった。
ユウユの純白ドレスはとても綺麗で、
それを身にまっとた彼女も負けじと綺麗だった。
カツをこの時、久しぶりに見た。
高校の時の無邪気というか、明るい感じを残しつつも、
彼ももうすっかり大人の男性へと変貌していた。
式中、私の心はうっとりし続けていた。
隣でそれを見ていたスバルは、始終笑顔だった。
式が終わり、皆に迎えられながら教会の外へと出る。
皆からの拍手と花吹雪が、二人をあたたかく包む。
「オメデトー」と誰もが言う声に、
二人は照れながらも「アリガトウ」と言い続けていた。
ユウユが私を見つけて駆け寄ってくる。
「おめでとう、ユウユ」
「ありがとう、ナツキ。それからスバルも。
来てくれて本当にありがとう」
「おめでとう」
スバルはにっこりと答える。
「カツもおめでとう」
ユウユの後を追ってきた彼にも私は声をかけた。
「ありがとう」
彼は微笑んだ。
「本当に突然で驚いたよ。おめでとう」
スバルがそう言うと、カツは「ありがとう」とか言って絡み始める。
その光景は高校時代を思わせる。
二人がじゃれあっている横で、ユウユが私に話しかける。
「あのね、ナツキにこれを受け取ってほしいの」
そう言ってさしだしてきたのは、ブーケだった。
「え…!?これ…私が受け取っていいの?」
彼女はうなずく。
「ナツキに受け取ってほしいの」
私は彼女から手渡されたブーケを受け取る。
花嫁に似合う、とても素敵なブーケだった。
「あ、もう行かなくちゃ」
ユウユはそう言って、教会の前に止められている車に乗り込もうとする。
行こうとする彼女に、私は慌てて叫ぶ。
「ありがとう!」
ユウユは振り返って、今日一番かと思わせる笑顔を浮かべた。
「私の方こそありがとう!!」
彼女のこの笑顔を、私は一生忘れないだろう。
結婚式が終わってから、スバルと私は夕飯を外ですませて帰宅した。
ソファーに座り、二人で何もせずにまったりとしていた。
彼が私の肩にもたれかかり、私は彼の頭にもたれかかっていた。
彼にこうして触れられたり、触れたりすること…
まだどきどきしてたまに緊張したりするけど、
それも以前と比べるとだいぶ慣れてしまった。
まるで当然のように、ごく自然のこととなっている。
最近ではたまに、いつか全てに慣れてしまうことに不安を抱いていたりする。
二人は会話もしないまま、しばらくそのままでいた。
私は頭の中で、今日の結婚式のことをじっくり回想した。
真っ白な、幸せな光に包まれた二人…。
本当に綺麗で、私はただ心を奪われるだけだった。
私は思わず感嘆のため息をもらす。
それに気がついたスバルが私の肩からゆっくりと頭を離し、
私を抱きしめた。
「どうした?疲れた?」
私は抱きしめ返しながら答える。
「ううん、そうじゃないの」
スバルが自分の額を私の額に当てて言う。
「じゃあ、何?」
「…今日のこと、思い出してた」
スバルが私に唇を重ねてきた。
こうしてキスするのは何度目だろう…。
彼が私を抱く力を少し強める。
こうして抱きしめあっていると、ずっとこのままでいたくなる。
離れたくなくなる。
この人のぬくもりを、あたたかさを、鼓動を、優しさを、心を…
全てを感じていたかった。
「…ナツキ」
彼が耳もとで私の名を呼ぶ。
「なに?」
私は静かに答える。
「…結婚してくれないか?」
「……」
あまりの突然の言葉に私は彼から離れ、
ソファーの端まで後ずさりする。
といっても、後ずさりしたのはたいした距離ではなかった。
私はびっくりしながら、前髪を右手でかきわける。
「え…と、スバル…今、なんて…?」
彼は私の反応にややショックを受けた様子をみせ、
困ったように笑いながらも真剣な顔つきでもう一度その言葉をいった。
「…俺と結婚してください」
私は再び言葉を失う。
意識が吹っ飛んだ状態がしばらく続き、
思考回路を正常にするのに時間を要した。
そんな私を見て、スバルはこちらに向けていた体を90度回転させて、
ソファーの上であぐらをかいた。
そしてももあたりに肘をつき、両手で顔を覆った。
「あー悪かった。今のナシ!
やっぱりもう少し経ってから言うべきだった」
スバルが後悔しながらわめく。
少し気まずい雰囲気が漂った。
私が何と言おうか当惑していると、スバルが口を開いた。
「でも…いつか俺とそうなっていいって少しは考えて欲しい。
時間はいくらでもかかっていいから」
「そんなのいらない」
スバルの話に私が拒否したので、彼が顔をあげてこちらを見る。
「時間なんていらない…」
彼は意味がわからなくて、
その答えを見つけだそうとして私を見続ける。
「私の心はもう決まってる。
こんな私でいいのなら…私と結婚してください」
そう言った瞬間、彼が私に抱きついてくる。
勢いあまって押し倒されたかたちとなってしまい、
私の頭だけがソファーからはみ出る。
「ちょっ…スバル!」
私の声を聞かずに、彼は私を抱きしめ続ける。
私はその体勢でいるしかないと、それ以上の抵抗を諦めた。
ふと、体にかかっていた重さがなくなったかと思うと、
頭を支えられながらソファーの上へと置かれた。
見ると、スバルがソファーから下りて、
私だけがそこに寝かされるというかたちになっていた。
彼が優しい目で見つめながら、私の髪をなでる。
「まじで心臓わしづかみにされた…
あんな反応すんなよ」
「ごめん…あんまりにも突然だったもんだから…
でも、私も考えてたよ。同じこと」
私はそう言いながら、彼の首に腕をまわす。
彼がにっこりと微笑んで顔を近づけ、
そしてまたキスをする。
「今度の休みにさ…」
「うん」
「ペアリング買いに行こう」
「はい」
一日一日が過ぎていく。
サキちゃんは学校に通い続け、もう心配ない状態になっている。
少女の心の影は薄れ、今は楽しい生活をおくっているようだ。
それでも月に一度は私のカウンセリングを受けに来ている。
もうカウンセリングというよりは、
学校で起こったことを私に報告する…雑談と化している。
少女の負担はなるべく軽減してあげたい。
この気持ちはいつまでも変わらないだろう。
今の状態へのきっかけをつくってくれたのは、
間違いなく少女のおかげだと思っているから…。
ヨウとも同僚として今まで通りやっている。
私が困っている時は助けてくれるいい先輩として、
良い関係を保っている。
ユイナさんとは会っていないけれど、
スバルとはいい仕事仲間としてうまくやっているようだし、
また笑顔で会える日もそう遠くないと思う。
ユウユ、カツ夫婦とは、どちらかの家にたまに集まって、
ホームパーティのようなことをしている。
一緒に食べたり、飲んだり、おしゃべりしたり…
あたたかい時間を共有している。
二人を見てると、とても幸せそうだ。
そして私は、今まで一人暮らししていた家を引き払った。
家にあった全てのものをスバルの家に移動させ、
今は彼の家で暮らしている。
彼とともに生活し、彼と共に時間を刻む。
もしも、彼と再会しなかったら…
そう考えるとこの幸せはなかったと思う。
彼との再会は偶然だった。
いや、もしかしたら必然だったのかもしれない。
彼の家のリビング。
そこにはベランダに出るガラス戸があって、
その上の方にブーケが乾燥してつるされた状態となっている。
すぐ下には小さなチェストがあり、中には赤い箱がしまわれて、
チェストの上には、うさぎのぬいぐるみが置かれている。