果ての記憶


 十代最後の夏休み。
夏バカンスとシャレこんで、海近くのロッジで四日間を過ごすこととなった。
友達のゆりなの家が所有している別荘を、貸してもらえることになったのだ。
ゆりなと彼女の彼氏の透、その彼の友達の和彦と私で泊まりに行くことになった。
この四人は大学に入ってから知り合い、よく遊びに行ったりと、仲が良かった。
そしていつの間にか、ゆりなと透が付き合うようになったのだった。
なので、今回は二人で行った方がいいのではないかと初めは渋っていたが、
結局、私たちまでついていくことになった。
べつに嫌ではなかったが、正直なところ、
なんだか口実にされたようであまりノリ気にはなれなかった。
さらに、この旅行のことを告げた時、両親はあまり良い顔をしなかった。
それは旅行自体が原因なのか、行き先に問題があるのかわからなかったが、
母親はやや反対した姿勢を見せた。
しかし父親は、それをなだめるようにして許してくれた。
私はなんとなく、釈然としなかった。
「気にせず楽しんできなさい」と、父親は優しく言っていたが、
心に何かひっかかってしょうがなかった。
そんな感じで、多少憂鬱な気分になりながらの出発となった。

 当日、飛行機に何時間か乗り、
向こうに着くと、ゆりなの家で手配した車が用意されていた。
さすがに運転手付きではなかったので、
ゆりなが道案内をしながら、透と和彦がかわりばんこで運転をした。
いちおう整備された道であったが、それでも車の揺れはややひどいもので、
周りは木々ばかりであった。
森・・・というより、伸ばし放題にされて無法地帯になっているジャングル。
という方がふさわしかった。
ここは無人島なのではないかと思わせるくらい、人の気配も全くなかった。
実際、この長い森の中の道を抜ける間、誰一人としてすれ違うことはなかった。
しかし、そんな不安な空間を抜け出してしまうと、
真っ青な海が目の前一面に広がった。
ジャングルと砂浜の境にちょっとした空間があったのでそこに車を止め、
四人は荷物を降ろしてから砂浜に足を踏み入れた。
見渡す限りの海と空。心地良く吹き付ける潮風。
あまりに壮大な景色に、私たちは感嘆のため息をもらした。
景色に心を奪われながらもしばらく経つと、
そこには本当に海と空以外何もないことに気づき、
少々不安になった私は思わずゆりなに尋ねた。
「泊まるトコは、どこ?」
 するとゆりなは私の方を振り向き、得意気な顔をした。
「あっちよ」
彼女は大きな放物線を描きながら、右の方角を指した。
目線をその先にやりながら目を細めて見ると、
私たちがいる砂浜のもっと遠くの方から桟橋が突き出ていて、
50メートルくらい離れたその先に小島が浮かんでいた。
ここからではよく見えないが、木々が生い茂っていて、
その中に守られるようにしてロッジが身を潜めていた。
「まじかぁ?すっげえなぁ!早く行こうぜ!!」
そう言い残すと透は、はしゃぎながら砂浜の上だというのに、
軽い足どりでロッジへとかけていった。
「あ、おい、待てよ!」
 そう言いながら和彦が後を追って走り出し、
「まったく・・・しょうがないなぁ」
と言って、ゆりなは肩から提げていた大きなショルダーバッグをしょい直し、
私の背中を軽く叩いて二人の後を歩いて追った。

 ロッジは綺麗な木の作りで、萱葺き屋根だった。
ドアを開けると、すぐそこにはリビングのような広々とした空間になっていて、
テーブルとソファーが置かれていた。
右奥には簡易的なキッチンが設置されていた。ガスコンロと水道。
これだけ取り付けてあればここでは立派なキッチンかもしれない。
反対側の隅にドアが一つ。入るとトイレとお風呂が分かれてあるらしい。
リビングの左側にはドアが二つあって、そこは寝室になっている。
右側は前面ガラス張りになっていて、外は板張りのベランダになっていた。
「ぅわ!すっげぇ!!」
透がさっそくサッシを空けて外に出る。
海の匂いが、一気にロッジの中にたちこめる。
彼はこれでもか、というくらいに柵から身をのりだし、目を輝かせる。
後に続くように、三人もベランダへと出る。
見渡す限りの海だった。陸もなければ、島もない。
本当にそこは波が穏やかに揺れているだけだった。
空は快晴で、白い雲が一つもなかった。
時間がゆったりと流れるこの楽園のような場所で、私たちは四日間を過ごすのだ。

 夜は、ベランダでバーベキューをした。
昼間はとても暑かったが、海に近いせいか、夜になると少し肌寒いくらいだった。
お酒がすすむと、ゆりなと透が二人の世界に入りだした。
ベランダの隅で二人は何かを楽しそうに話ながら、
お互いを愛しそうに見つめ合っていた。
私はそれを遠目で見ながら、気づかないフリをした。
なるべく見ないようにした。が、終いにはどうしていいのかわからなくなって、
椅子に座ってそっぽを向きながらお酒をやたら手にし、
そのあい間にお皿にのった少し冷めたお肉と野菜を口にした。
「まったく・・・結局俺らはダシに使われたって感じな」
 横から声がしたのでそちらを向くと、酒を片手に和彦が隣に座っていた。
「ホントね・・・まぁ、しょうがないけどね」
私はため息をつきながら、深く椅子に座った。
一定のリズムで、海が呼吸していた。

 後片付けが終わってから、皆お酒がまわっていたのか、早々と寝ることになった。
奥の部屋にゆりなと私、手前の部屋に透と和彦という風になった。
私はベッドに潜りながら、まだ荷物をごそごそやっていたゆりなに言った。
「本当は、二人で来た方がよかったんじゃないの?」
「はぁ?何言ってんの・・・あぁ、もしかしてさっきの?」
ゆりながこちらに来て、私の寝ているベッドのへりに静かに座った。
「ごめんね・・・つい。気をつけるから」
「・・・ん」
二人の会話が、静かな部屋にぽつりぽつりと浮かんだ。
彼女が、シーツにくるまったままの私の頭を優しく撫でた。
「や、やだ!なんか恥ずかしいからやめてよっ!」
「あはは。サヤはやっぱり可愛いなぁ」
「んもう!」
二人は笑いながらじゃれあった。
そこでふと、ゆりなが真剣な顔つきになる。
「サヤが・・・さ、和彦とうまくいってくれればなって思って。
今回、きっかけをつくったのよ」
「え!?」
私は彼女の言葉に、思わずベッドから這い出す。
「え・・・何、それ。どういうこと?」
「だからさぁ、和彦とのこと、頑張りなさいよってこと」
私は、今回の旅の隠れざる目的を聞かされ、愕然としてしまった。
「あの、ゆりな・・・なんか勘違いしてる」
「ん?」
「私・・・和彦のこと、べつになんとも思ってないよ」
私の言葉に、ゆりなが一瞬固まる。
「いや、その、友達としては好きだよ?
でもそれ以上はべつに考えてないっていうか・・・」
「えぇ!?だって、あんなに仲良くて良い感じなのに?」
「う、うん・・・」
私はただ状況に驚いてそれ以上何も言えず、
それはゆりなも同じようだった。
しばらくベッドの上で固まる二人。
ゆりながため息をついて、気が抜けたように肩を落とす。
「な・・・なぁんだ。私も透もてっきり・・・。だから二人をくっつくようと・・・」
「そっそんなことしなくていいし!!」
 私は思いっきり否定をしたが、
彼女の頭の中は勝手に方向転換されていた。
「ま、いいじゃない。べつに嫌いなわけじゃないんだし、
この旅行でもっと距離を縮めて付き合っちゃえば?」
「えぇ?」
「夏は燃える季節ですからねぇ」
ゆりなはそう言うと、自分のベッドに飛び移った。
「大丈夫、邪魔はしないから。おやすみ!」
「ゆりな・・・っ!」
彼女は私の言葉を右から左に聞き流し、満足気に眠りについてしまった。
一方で、ベッドの上で呆然と座り込む私。
こうして第一日目の夜は更けていった。





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