The moment
     〜Don’t mask your feeling〜

 

 その日、その時、私たち人間はしっかり立って生きていかなければならない。
自分が何をしたいのか、何を望んでいるのか、
その瞬間を自分が後悔しないように大切にしなければならない。
そうしなければ、取り返しがつかないことが起こる場合もある。
後になって気づいて、過去を振り返ってももう遅い。
流れた時間は決して戻っては来ない。
それは、私が身をもって経験したことだ。


 私は17歳で、高校三年生の春を迎えたばかりだった。
受験のことで考えなくてはならないことがあるにもかかわらず、
他にも悩まされることもあって…
とにかく時が流れるのは速いと感じていた。

 私にはよくつるむ友達が三人いた。
2年の時クラスが一緒で仲良くなり、
3年も持ち上がりで一緒だったので、私たちはより仲良くなった。
一人目は『タカサキ ユウ』。
私は『ユウユ』と呼び親しんでいた。
背は高く、すらっとしていて、スポーツ万能、おまけに成績優秀。
明るく元気な子で、男子からも女子からも評判がよかった。
容姿も美しく、肩までのびているサラサラのやや茶色がかった髪が、
彼女をより一層美しく見せた。
ここまでそろった人間もあまりいないと思う。
私たちは大の仲良しで、お互いになんでも話せたし、すごく気もあった。
少なくとも、私はユウユとは親友だと思っていた。
しかし彼女と一緒にいる度に、私は引け目を感じていた。
自分とは全く正反対の彼女。
時々、なんでこんな私と仲良くしているんだろう?と疑問に感じていた。
彼女といる時は楽しい…でも、同時に負い目も感じていた。
彼女にはなんでも話せたが、こう思っていることは打ち明けられずにいた。
二人目は『イイダ カツヨシ』。
『カツ』と呼ばれ、周囲からも親しまれていた。
明るく、活発で、なんでもストレートといった感じだった。
サッカーが得意で、中学の時は名の知れた選手だったらしい。
そしてこの高校にスカウトされ入学した。
実力はあるのに、たまにサボる癖があり、よく部員や部活のコーチに怒られていた。
それでも要領がいいというか、なんというか…
まったくしょうがないわねといったカンジで、毎回見逃される。
周りから温かい目で見守られている…そうさせる魅力が彼にはあるのかもしれない。
彼は人の気持ちを察することができ、
相手の気持ちも、自分の気持ちも尊重するためにはどう動いたらいいのか、
きちんと考えられる人であった。
気遣って、いつも周りを…私たち四人のグループ内を明るくしてくれる、
いわゆるムードメーカーってやつだった。
彼の周りはいつもあたたかい。
最後の一人は『アイジマ スバル』。
そのまんま『スバル』と呼ばれ、恐れられた存在であった。
というより、少し近寄りがたいイメージがあった。
愛想なし、クールで、なんでもいとも簡単にこなしていまう超人。
欠点などないといってもおかしくないが、
彼には一つだけ不得意とするものがあった。
人と接することだ。
彼は人と接することをあまり好まない。
よってきた相手には、そっけない態度をとる。
人を寄せ付けない独特の空気を放っている。
そんな彼が私たちと一緒にいるのは不思議なことだったが、
私たちのグループにいる時だけは、少しだけ心を許してくれた。
たまに彼がわからないこともあったけど、ゆっくりと空気に馴染んでいった。
彼の冷たさの中にあるさりげない優しさ。
そんな部分が見える時、私の鼓動は速さを増す。
隠れている部分をもっと知りたい。
もっとさらけだしてほしい。
そして、少しでいいから私に興味をもってほしい…
そういつも望みながら、私は彼に恋している。


 「明後日の日曜、ヒマなやつ!」
それはある日の昼休み、教室でいつものように四人で楽しくお弁当を食べている最中のことだった。
突然の問いかけになんの躊躇もなく、条件反射というやつか、
私たち三人はそろって手を上げてしまった。
「よしっ!じゃあ決まりだなっ」
そう言って、どんどん話を進めていったのはカツであった。
「ちょっ…まってよ!ちゃんと説明しなさい!」
と言ったユウユの手に渡されたのは一枚の紙切れだった。
「な、なによ…これ?」
「遊園地のタダ券が手に入ったんだ。みんなで行こうぜ!」
顔いっぱいに満面の笑みを浮かべながらカツは言った。
「ま、どーせヒマだしな。タダなら行く」
カツから券を受け取りながら、ぼそっと言ったのはスバル。
「きゃー!まじ!?遊園地なんて久しぶり〜もちいくいく!
 ナツキもいくでしょ!?」
ユウユがはしゃぎながら私の顔を見た。
「うん、もちろん行くよ」
私は笑って答え、カツから券を受け取った。
「じゃ、決まりだなっ。10時30分に現地集合!」
そう言ったカツに私たちは「ラジャー」と返した。
すると、思い出したようにユウユが言った。
「あれ?日曜って部活の練習があるんじゃないの?カツ?」
カツはぎくっとした。
「あー…えーと、気のせい。おまえの勘違いじゃん?」
その焦り具合から、サボろうとしているのがみえみえだった。
「あんたはいつもいっつもサボって!
 そのうちレギュラー外され泣いても知らないから!」
「心配しなくても大丈夫。俺、絶対外れないから」
にっと笑う自信たっぷりのカツ。
その自信は一体どこからくるのだろうと思いつつ、
実際実力があるので、レギュラーに外されたことは一度もない。
それを分かっているから、ユウユもなかなか言い返せない。
「…ねぇ、カツ。『サルも木から落ちる』ってことわざ知ってる?」
「俺、猿じゃねーもん」
「そうじゃなくて…」
二人の終わりそうもないやりとりを、私は止めようとしなかった。
どうせいつものことだし、本人たちも楽しんでいるようだったので邪魔をしなかった。
私はカツからもらった券を眺めていた。
最後に遊園地にいったのはいつだったかな?
きっと楽しいんだろうな…
そう考えていると自然と笑みがこぼれた。
「楽しみだな」
私は思わず顔をあげた。
前に座っていたスバルが頬づえをつきながら、にっこりと笑ってこちらをみていた。
「う、うん」
私はそう答えるので精一杯だった。
スバルに話しかけるの、いまだに慣れてない。
普段みんなでしゃべっているときは平気なのだけれど、
あまり口を開けないスバルが突然話しかけてくるとつい動揺してしまう。
私は視線を券のほうに戻した。
その時、私は日曜が楽しみでしょうがなかった。
しかし、待ち遠しかった日曜日が一変する。
今思えば、これがすべての始まりだった。
良かったのか、悪かったのか…でも、
これから起こる出来事はいつか起こることだったのかもしれない。
いや、むしろ今まで起こらなかったほうがおかしかったのかもしれない…。
とにかく、この時は誰も予想していなかったのだ。
誰一人としてこの先のことを… 誰一人――…


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