The moment
〜Don’t mask your feeling〜
「はやくあなたに会いたかったの」
あの後、カツと私はゆっくりと帰り道を歩いていた。
「だから、ずっと駅で待ってた…」
「ちょっと寄ってく?」と、カツは私を通りかかった公園に誘った。
彼はブランコを見つけると、荷物を置いてこぎ始めた。
「向こうにいっても、ずっと考えてた…」
こぎながら彼はいった。
「ずっとずっと想ってた…」
ガシャンと、彼はブランコから飛び降りた。
そして私の前に立った。
「ずっと想ってた…ナツキのこと…」
そう言って、彼は私の頬に触れた。
「一分一秒とも…忘れなかった。…ナツキは?」
…ワタシ…は?
一分一秒とも忘れずに、カツのこと想ってた?
――…スバル
一瞬、脳裏をかすめた名前があった。
そう…その名前は…
「私…は…」
チガウ…ワタシハ…
「……」
ワタシガオモッテタノハ…
「私…も、カツのこと…」
そう言葉にしようとした瞬間、目から涙があふれた。
何考えてた?誰を想ってた…?
違う…それは違うの…
「カツだけ…カツが好き…好きなの…。
あなたしかいない…ずっとそばに…」
言い終わらないうちに、カツは私を抱きしめた。
きつく きつく抱きしめた。
「…ナツキ」
カツが少し力を緩めた。
彼と私の顔が近くにあった。
彼は片手で私を抱き、もう片方の手で私の涙をふいた。
そして私の顔を寄せた。
彼の熱い唇が、私の唇と重なった。
…これが私たちのファーストキスだった。
それからお互いになんだか照れくさくなって、
ぎくしゃくしながら公園で別れて帰った。
でも私はなんとなくそのまま帰りたくなくて、その辺をふらふらしていた。
すると、頭に何か冷たい感触があった。
見上げると、雨がぽつぽつ降り始めていた。
けど…そんなのどーだってよかった。
心の中はなんだかぽっかりと穴があいたみたいで…
魂が抜けたみたいだった…。
私は立ち止まり、雨にあたっていた。
考えることはたくさんあるのにうまくまとまらなくて、
ショートした感じだった。
ふと、雨があたらなくなっていたことに気がついた。
振り返えり…そして私は目を疑った。
「何やってんだ?風邪ひくぞ?」
私に傘をさしだしてくれたのは…さしてくれたその人は…
「…ス…バル…」
何日ぶりだろう…何ヶ月ぶり?
彼がこんな近くに…私の目の前にいるのは…
胸が…胸がすごくあつくなった。
「とにかく、濡れてるのをふこう」
やや放心状態の私に彼はいった。
それから私の肩を抱き、近くにあった電話ボックスの中に入った。
中は狭かった。
「たしかタオルが…あ、あったあった」
彼は持っていたカバンの中からタオルを出し、
私の頭から肩、そして腕をふいてくれた。
「キレイなやつだからな」
そう言いながら、もぬけのからになった私をスバルは優しくふいてくれていた。
――ユウユに聞いた…よかったね…
――…おかげさまで
あれ以来だった。まともにスバルの声を聞いたのは。
私、ひどいことしたのに。あなたにウソついたのに。
なのに…なのにどうして?
「なんだって傘も持たずにフラフラと…天気予報、見なかったのか?ナツ…」
彼が顔を上げ、私を見た。
「なんで…なんで…?」
私の頬には雫が流れていた。
それは涙なのか、雨なのか分からなかった。
「私…私、スバルにひどいことしてきた…なのに!
…なのに、どうして?どうしてこんなに優しいの…?」
私は壁に寄りかかり、うつむいてしまった。
「…ナツキ…」
まだナツキって呼んでくれるの?
ナツキって…前みたいに…
雨の降る音が遠くで聞こえていた。
電話ボックスの中は、私のすすり泣きが響いているようだった。
「本当は…」
スバルが思い口を開けた。
「…本当は、ナツキにいろいろ言われたりしてすっげぇ頭にきた。
ずっと怒ってた。でも…今日久しぶりにナツキの後ろ姿を偶然見つけて、
寂しそうな後姿を見て、なんだかほおっておけなかった」
スバルって、こんなに優しかった…?
今まで彼の優しさに何度か触れてきたけど、
今、彼の優しさが身に、心にしみていた。
自分のこと以外の他人のことになんて興味を持たない、
愛想がなくて、クールで…
何が彼をこんなに変えたの?
それはユウユのおかげ?
「…それ、してくれてるんだ…」
スバルが見ていったものは、
私が首からさげている彼からもらったペンダントだった。
「春あたりだったよね?遊園地にいった時の…」
――スバルに…抱かれたの…
――ナツキのことずっと想ってた…
――なんだかほおっておけなかった
その時、私の中で何かがはじけた。
過去も未来も現在も…そして他のことみんなどうでもよくなった。
私はペンダントを握りしめた。
「ずっと…」
「え?」
「ずっとしてたの!このペンダントを…」
「…え」
少しの沈黙があった。
私は考えていたことをゆっくりと言葉にした。
「スバルにもらったあの日から…ずっと、毎日毎日首にかけてた。
それくらいスバルにもらったこのペンダントが大切だった。
本当はスバルの誕生日の日に誘われて、すごく嬉しくて、
一緒に待ち合わせの場所に行きたかった…でも!
私がこんな気持ちで、あの四人が壊れるのが恐かった…
ユウユがあなたのこと好きだってこと聞いて、何も言えなかった!!」
私の息があがっていた。
誰か別の人が私の代わりに、全てを吐き出してくれているようだった…。
彼は何も言わずに、私の前に立っていた。
気づいた…
私は気づいてしまった…
――…一分一秒とも…忘れなかった。…ナツキは?
私は…私が一分一秒とも忘れなかったのは――…
「私は…私はずっとずっとスバル、あなたのことが…」
あなたのことが――…
「好きなの…」
彼の表情はうつむいていたのでわからなかった。
でも、恐くて見ることができなかった。
と、私は我に返った。
ナ…ニ…?私…今、なんていっ…た…?
やだ…勢いで、なに告白してんの!?私…
彼はユウユとつきあっていて、それで二人は…
なのに、今さら私が間に割って入って、何に…
何になるっていうの…!?
「…ごっごめん!今の…なんでもないのっ忘れ…」
私は顔をあげ、スバルをみた。
彼は信じられないといった表情をしていた。
「…んだよ…なんだよ、それ!?」
私は足の先から血の気が引いていくのが分かった。
「おまえ…今さら何言っ…ユウユから聞いたからって…
なんだよ、それっ…」
「ちがっ…ごめんなさい…違うの今のは…」
「何が違うんだよ!?おまえは前もそうだった。
自分の思ってることごまかして、うやむやにして。
一回くらい…一回くらい本当のこと言ったらどうなんだよ!?」
本当の…こと? 本当のことなんて…
「ごめんなさい!」
私は電話ボックスを出て、雨の降る中を走った。
なんてこと…私は今さらなんてことを…!!