The moment
     〜Don’t mask your feeling〜



 ――…一回くらい本当のこと言ったらどうなんだよ!?
スバルの言うとおりだった。
いろんなこと勝手に決めつけて、
自分の思ってること押し殺して、相手に押しつけて…
ごまかして、うやむやにして…バカなことした。
後悔だけがつのる。
そして傷つけて、怒らせた…スバル…
今でも想っているのは…好きなのは、カツじゃない。
まだスバルなんだ。
全然ふっきれてない。こんなにも彼のことが好き。
伝えてすっきりしたハズなのに、大きな、大きな影につかまってる…
これからどうなるの…?
どうすればいい…?
まさかスバルとつきあえるわけないし、
だからといってこのままカツとつきあってるわけにもいかない…。
彼に甘えてるワケにも…いかない。
考えよう…自分が今しなきゃいけないことを…!


 「めずらしいね。ナツキから会おうなんて」
数日後、私はカツに会うことを決心した。
「何?なんか話があるって言ってたケド」
待ち合わせの場所、そこは駅前のカフェテリア。
人はそんなに入ってなかった。
カツは頼んだアイスコーヒーをストローでかき混ぜていた。
私の頼んだアイスティーに浮かんでいた氷が、カランと動いた。
「ナツキ?」
「……」
私は重い口をゆっくりと開いた。
「どっか…行かない?」

 その日は海の近くに遊びにいった。
まず水族館に入った。
大きなガラス張りの水槽の中には色とりどりの魚がたくさんいて、
とてもキレイだった。
イルカショーを見たりもした。
その辺りをあてもなく歩いた。
まるで海の中にいるかのように、とても不思議な感じがした。
カツと過ごしている時間は楽しかった。
時間感覚を失ってしまうくらい…とても、とても楽しかった。
時間はあっという間に過ぎ、気がつくと太陽が水平線に近づいていた。
「楽しかったな」
私たちは海岸にいた。
「…うん」
私は静かに答えた。
彼の横顔が夕日に照らされて、とても大人びて見えた。
失いたくなかった…この人を。
こんなに私のことを想ってくれる人いない。
「ナツキ…」
私は彼の腕の中にいた。
失いたくない…でも、でもこれは違う…。
「…ごめん…」
私はゆっくりとカツを突き放した。
「…ごめんなさい」
違うんだ…カツの優しさに甘えてるだけなんだ…。
「…ナツキ?」
彼は少し驚いた様子だった。
「私…私、すごくカツのこと好きだった。すごく好きだった。
 でも…でもね、それは違ったの…。
 自分にそうなんだって言い聞かせて、自分の気持ち見えないフリして…
 まだ、ホントは…」
言葉がつまってしまった。
今日一日、彼と一緒にいて決心が揺らいだ。
けど、たとえこのまま私といたら彼を縛り付けて、傷つけるだけだ。
これは私が決めたこと…!
「ごめんなさい。もうカツとはつきあえない」
彼は言葉を失っていた。
長い沈黙が続いた。
ほんのちょっとだったのかもしれないけど、とても長く感じられた。
彼と私のいる空間だけ、時が止まっているようだった。
彼の口がようやく動いた。
「まだ…スバルが好きってことか…?」
私は一瞬とまどったが、小さくうなずいた。
「だめ…か?どうしてもだめか?」
彼の声は少し震えていた。
「俺じゃ…だめなのか?」
「ごめんなさい」と、私は小さな声で答えるしかなかった。
「これからもっと努力するから…!
 ナツキをもっともっと大切にするからっ…」
「違う!カツは悪くないっ。私に充分なことしてくれた。
 すごく感謝してる。でも、気づいたの…
 まだ私はスバルが…スバルのことが好きだって」
そう…いつだってカツは私を大切にしてくれた。
「でも、スバルにはユウユが…」
「分かってる!分かってるの…でも気持ちは止まらなかった。
 あの二人の間を壊そうなんて考えてない。
 ただこんな気持ちであなたとはつきあえない。
 あなたを傷つけるだけだもの…」
「俺はそれでも構わない!!ナツキ!
 俺はおまえになら傷つけられたって、何されたって構わない!
 ただ…おまえの側にいたいんだ…」
カツの必死さ、私に向けてくる真剣な目に心が締め付けられた。
「全部、私がいけないの…あの人を忘れられない私が。
 カツには本当に、言葉で言い尽くせないくらい救われた。
 どんなに心が満たされたか…だけどこれはもう、
 私が決めてしまったことだから」
…決めたことだから…
「今までありがとう、カツ…」
カツの目にはうっすらと涙が見えた気がした。
「…そんないきなり言われて、すんなりはいそうですかって、
 わりきれるかよ!?」
そう言って、彼はその場を去ってしまった。
私はその背中を追いかけることができなかった。
そこから動くことができなかった。
自然と涙が頬を流れた。
彼には本当にひどいことをした…胸が押しつぶされそうだった。
クルシイ…
でももっとつらい思いをしているのは、彼のほうだ…。
彼を失って、私は本当に一人になってしまった。
一人に…

空と海の境界がわからなかった。
全てが暗闇に包まれていた。


 それから私はやりきれない気持ちでいた。
カツとはもちろん会わなかったし、連絡もとらなかった。
何度かスバルのところに行こうかと思った。
彼の胸に飛び込みたかった…そんなことできないのに、
考えてしまう自分が嫌でたまらなかった。
カツのこと傷つけたというのに、
その出来事を忘れてしまったのかと思うくらい心はスバルのことを想っていた。
スバルに告白して…これからどうしようって考えてる。
心の片隅で、ユウユとどうにかなってないかって少し期待してる。
こんな自分を嫌だと思いながらも、冷静に眺めてる自分がいた。


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