The moment
〜Don’t mask your feeling〜
数日経ったある日のことだった。
夕方近くに塾から帰ると、家の前に誰か立っていた。
太陽の光で逆光になっていて、顔が影になっていた。
はじめは誰だか分からなかった。でも、
「久しぶりね…」
そう言われた声で分かった。
「…ユウユ」
私はつばを飲んだ。
彼女の雰囲気が、この前会った時とは違っていた。
どことなく冷ややかな感じだった。
立ち止まっている私の前に、彼女がゆっくりと歩み寄ってきた。
「…カツと、別れたんだってね」
私はその言葉に少し安心した。
スバルに告白したことを責められるかと思っていたからだ。
「聞いたの?」
「ええ…」
沈黙があった。
私はその事について何か話さなければいけないのかと、
少し悩んでいた。
すると、彼女のほうが先に口を開けた。
「ナツキがスバルに告白したってことも」
その一言で、私の胸の鼓動は一気に速さを増した。
「彼から聞いたの」
ユウユがすごく恐かった。
もう頭の中は真っ白だった。
「私、春あたりに聞いたよね?『ナツキはスバルのことどう思ってるの?』って。
その時ナツキは『なんとも思ってない』って答えたよね?」
そう、その答えが私を変化させた。
後悔と絶望へと私を導いた。
そこから全ては狂い始めた。
ユウユは続けていった。
「それで私に協力してくれた。
おかげで、私はスバルを彼氏にすることができたわ。なのに…」
彼女の、私を見る目はより一層恨みのこめたものになっていった。
「なのにどうして今さらあんな事っ…!」
彼女は吐き捨てるようにいった。
「なんで今さら、彼のことが好きだなんて言ったのよ!?」
私は、心臓をえぐられたようだった。
やはり、あれは言ってはいけないことだったのだ…と、
罪の意識のようなものが私に重くのしかかった。
何も言えなかった…というより、
何を言おうかという考えが頭の中では正常に働かなかった。
その場に立ちつくいてるしかなかった。
「何?ヒトのものが欲しくなったの?
あなたにはカツがいたじゃない!?それ以上、何を望むの?」
彼女は口元にうっすらと笑みを浮かべながらいった。
「彼は私の恋人なの!
私にはスバルしかいないの…スバルしか…」
ユウユの目から涙がぼろぼろと流れていた。
こんな彼女をみたのは初めてだった。
「私から彼をとらないで…!」
ユウユはそういってその場に崩れた。
私の頬に一筋の汗が流れた。
私の口から彼女に言う言葉は、ただの言い訳にしか聞こえない気がした。
こうなってしまったからには、もう何を言っても無駄だと思った。
でもたった一つ。これだけは誤解してほしくなかった。
「ユウユからスバルをとる気はないよ…」
確かに、私は彼に告白したし、
ユウユとどうにかなってないかって…
私のもとへきてくれないかと期待したりもしていた。
なのにこんなこというの、すごく矛盾しているかもしれないし、
ただのキレイごとにしか聞こえないかもしれない。
本当にとる気がない。これっぽっちもない…というと、ウソになるかもしれない…。
だけど、こんな彼女から彼はとれない。奪えない。
絶対に奪ってはいけないのだ。
ユウユのことも大切なの。
どうしたらこの気持ち、分かってもらえる?
「うそよ…」
彼女はうなだれたまま呟いた。
「またうそに決まってる!」
今度は少し大きな声でいった。
そんな風に思われるだろうと覚悟はしていたけれど、
私の顔に力が無くなっていくのを感じた。
私はうなだれたままの彼女を見ているしかなかった。
彼女の肩は、震えていた。
「私は…ナツキの言葉を信じてたのに…
でも彼のこと好きだったんじゃない…。
もうナツキの言うことは信じられない…信じられないよ」
私は信用を失ったというのに、なぜか心に波はたたなかった。
状況を冷静に受けとめていた。
半ば、信じてもらえないだろうとあきらめていたからだろうか…
ユウユは残った力をふりしぼったように立ち上がり、いった。
「あなたが早く言ってくれればこんなことに…
彼とぎくしゃくすることなんてなかった…」
「ユウ…」
「あんたなんかもう、友達でもなんでもないわ!!」
彼女は涙いっぱいの恨みをこめた目で私に絶交を告げ、
その場から走り去った。
カツの時と同じく、私は彼女を追うことができなかった。
そんな権利さえなくなった気がして、
しばらくそこから一歩も動けなくなった。
私はなにもかも失っていまった。
大切な友達も、大切な人も…
――おまえの側にいたいんだ―…
ごめんなさい…カツ。
――あんたなんかもう、友達でもなんでもないわ!!―…
ごめんなさい…ユウユ。
そして…ごめんなさい、スバル。
心の中で、何度も謝罪の言葉を繰り返しても遅い。
あの時に、ちゃんと自分の言葉を言うべきだった。
――ナツキはスバルのことが好きなの?―…
正直に言えなかった。 言えるわけなかった。
コワかったから。みんなを失うのがコワかったから…
でも、結果的に同じだった…。
結局全てを失った。
こんなことになるのなら、はじめからきちんと言うべきだった。
『私はスバルが好き』と。
もう過去を振り返っても遅い。もとには戻れない。
ソンナコト ワカッテル。
私が壊した。
私がみんなを傷つけた。