The moment
〜Don’t mask your feeling〜
そして3月――…卒業式の日をむかえた。
泣かない人はいなかった。
皆それぞれの進路を進む。
中にはもう二度と会わない人もいるだろう…。
最後の時、別れを惜しんでいた。
「ナツキ」
呼ばれて、私はすごい勢いで反応した。
私の目の前にいたのは、カツとユウユだった。
「話があるんだ…ちょっといいかな?」
そう言ったのはカツだった。私は頷いた。
三人は教室をでて、裏庭にいった。
外は暖かい風が吹いていた。春のおとずれを知らせていた。
「…実は、ナツキに言わなきゃいけないことがあるんだ」
カツがそう切り出した。
私は何を言われるのかとドキドキしていた。
「俺たち…お互い協力して計画をたててたんだ」
一瞬、なんのことだか分からなくて、
「計画…って?」
と、聞いてしまった。
カツは言いづらそうにしていたが、決意を固めたようにしていった。
「俺はナツキが好きで、タカサキはスバルが好きだった。
お互いにそれを知った時、ある計画をたてたんだ。
タカサキがナツキにスバルとの仲を取り持つようにさせて、
そして俺はナツキに告白する…と」
私は耳を疑ってしまった。理解ができなかった。
「俺たちは、ナツキはスバルを、スバルはナツキのことを好きだと知りながら、
自分たちがうまくいくよう、二人の仲を裂いたんだ。
タカサキと俺がそれぞれ告白して、四人の中がごちゃごちゃするのも嫌だったし、
二人がつきあうのも嫌だった。
だから一か八かでこの計画をたてて実行したんだ…その方がマシだと思ったんだ」
「じゃ、じゃあ今までのは、私とスバルをつきあわないようにするための…?」
「面白かったわ。だってあなたたちは考えてたとおりに動いてくれたんだもの。
ナツキ、あなたは特にね。
私の思うとおりに…あなたの言動に傷ついたスバルは私を選んだのよ」
ユウユが初めて口を開き、続けていった。
「全て計算通りだった…ナツキがスバルに告白しなければ…。
あれからスバルの心はまた揺らぎ始めた。
私は不安だった…彼がナツキのところへ行ってしまうことが。
でもナツキはスバルに、私のところにいってといったんですってね?」
「だって…スバルはユウユが大切だといっていたから…」
「ナツキに告白されても、彼は私のところへ戻ってきた。でも、
やっぱり違うって思ったの」
「…違う?」
「スバルは私のこと、大切に想ってくれたわ。
でも彼の心の中にはしっかりナツキがいた。本人も気づかないくらい奥深くにね…
私はそれをずっと知っていながら、気づかないフリをしていた。
そして彼をはなしてあげなかった。そんな恋のカタチもありだと思ったから。
だけど、スバルのことをはなさないって必死になって、
結局彼のことを考えてあげられなくなったのよね…。
彼の気持ちがだんだん私から離れていくのがわかった」
ユウユはつらそうな顔をしていた。
私は彼らの話に実感がまだわかないまま、黙って聞いていた。
「それで一緒にいるのがつらくなったの。
お互いのことが考えられなくなったらもう終わりよね。
私の良心もカツとの計画のことで、罪悪感を感じて耐えきれなくなっていたしね…」
ユウユは一息ついて、決心したかのようにいった。
「私は思い切って、カツと計画していたことを全て話したわ。
それを話して嫌われるなんてわかりきったことだったけど、
それでもウソをつき続けてる方がつらくなっちゃたのよね。
で、私たちは秋頃に別れたの」
「え?」
私は驚いてしまった。
そんなこと全然知らなかった。
確かに二人が一緒にいないことに不自然をおぼえたことがあったけど、
まさかそんなことになっていようとは…。
「…今までごめんね、ナツキ。
いつかあなたにののしったことあったけど、
私のしたことの方が非難されるべきことだわ。
四人の中で最低な裏切り行為…許してもらおうなんて思わない。
謝ってすむことじゃない…でも、本当にごめんなさい!」
ユウユは頭をさげた。
「俺も悪いことしたと思ってる。一番考えなきゃいけなかったのは、
自分の気持ちよりも好きな人の気持ちだってわかった。ナツキのことを想いつつ、
側にいたいがためにおまえのこと傷つける計画に手を染めてしまった。
本当にごめん!」
そう言って、ユウユの隣にいたカツも頭をさげた。
私はそんな二人を目の前にして困ってしまったと同時に、ショックだった。
私の知らないところでこんなことになっていたなんて…
今までのことが、全部仕組まれていたことだったなんて…
そんなこと誰が考える…?
「二人ともひどいよ」
一番大切にしていた人たちに、一番信じていた人たちに…ウラギラレタ。
「私がどんなに悩んで傷ついたか!二人でそんな計画をたてて、
なんにも知らないフリして、騙して、最低!」
自分でも止められない、怒りに似た感情がわきおこった。
二人は顔をあげて私を見た。
「ナツ…」
二人が私の名を呼びかけたが、私はそれを遮った。
「でも!でも…私もいけなかった。
ユウユにスバルのこと聞かれて、素直に言わなかった私もいけなかった。
二人のことばかり責められないよ…私こそごめんなさい」
私は頭をさげた。すると、
目にたまっていた涙が地面にぽたぽたとこぼれた。
その涙をぬぐいながら、私は顔をあげていった。
「ありがとう。正直に話してくれて」
「本当は言おうか迷った…でもスバルにも話したから。
それに私たちは仲良くしてきた友達だから…。
ずっと大切にしていきたいと思っていたのに、こんな状況にしてしまったけど…」
「本当にごめん」
そう言ったカツの目は赤くなって、うっすら涙がうかんでいた。
そして私とユウユはぼろぼろと涙を流しながら、
お互いを抱きしめあった。
「ごめん…ごめんね、ナツキ」
ユウユは泣きながらそういった。
かすれた、小さな声で何度も何度も…。
私はただ泣くことしかできなかった。
しばらくしてユウユが体を少し離した。
「私、本当は寂しかったの…。
ナツキはなんでも話してくれたのに、お互いなんでも話しあえたのに、
スバルが好きだってことだけは言ってくれなかったから…」
「ユウユ…」
「ナツキをスバルにとられるって…単に嫉妬してただけなのかもしれない。
もしかしたら私は、ナツキが好きなスバルが好きだったのかも…」
ユウユは自嘲したような笑いをした。
「スバルに、もう一度告白しなよ…」
「え…?」
「こんなこと言える立場じゃないけど…。
もう一度言えば、今度こそスバル自身の気持ちの中でナツキのことを考えると思う。
私は彼をはなした…もう誰にも気兼ねしなくていいんだよ」
「でも…そんなこと…そんなことできない。彼は私のこと…
私に対する気持ちがわからないっていったんだよ?」
「それは夏のことでしょ?あれから時は経ったし、状況も変わったわ。
気持ちも変化してると思う…良い方にも、悪い方にもね。
スバルは自分から気持ちをさらすことはしないよ…
そういうとこ不器用だから…知ってるでしょ?」
私は頷いた。
「まだ…好きなんでしょ?スバルのこと」
ユウユのその問いに、今ならはっきり答えられる…。
「私は…スバルが好き…」
ユウユはため息混じりに笑った。
「やっと言ってくれたね…ちゃんとナツキの口から聞けてよかったよ」
「ごめんね、ユウユ」
「キレイ事かもしれないけど、今は祈ってるから…
ナツキとスバルがうまくいくことを…」
「俺も…」
三人の間で笑顔が戻った。
みんな同じだった…。
四人の仲を壊したくなかったというのは。
壊れることを恐れていたのは、私だけではなかった…
維持するカタチこそ違ったけど、想いは同じだった。
二人は教室に戻り、私は裏庭を一人でうろついていた。
――…スバルに告白したら?
ユウユに言われて心が揺らいだ。
まだスバルが好き…こんなにも好き。
あなたを考えるだけでこんなにも切なくて、胸が苦しくなる。
これからどうしようかと考えながら私が校舎の角を曲がると、
向こうに一人の男性が立っていた。
その人は、風に舞い落ちる桜を遠い目で眺めていた。
「…スバル」
それほど大きな声をだしたつもりはなかったのに、
彼は私の声に反応してこちらを振り向いた。
「ナツキ…」
私は彼にゆっくり近づいて、隣で舞う桜を見た。
「綺麗だね…」
と私が言うと、
「ああ…」
ぽつりと彼は答えてくれた。
なんだか二人でこうして桜を見ているのが不思議だった。
頭の中では、一年間起こったことを思い返していた。
迷い、悩み、後悔、挫折…傷つき、そして傷つけた…。
本当にいろんなことがあった…。
そうして今、私はスバルにもう一度気持ちを伝えるべきかどうか迷っていた。
ここで言わないとまた後悔してしまう気がする。
でも言うべきなのだろうか…?
ただ、自分の気持ちに区切りをつけるということに関しては、
ちゃんと言うべきだと思った…。
「スバル」
私は彼を見た。
彼は私が何を言おうとしているのか、察したかのようにこちらを見た。
「何…?」
私の頭の中は真っ白だった。
「私…私ね…」
息をのんで、震える声を押し殺していった。
「私はあなたが好きです。今まで言えなかったけど、
ちゃんと自分の気持ちと向き合って、伝えようと思いました。
スバルが好きです」
沈黙があった。
私とスバルの間を数枚の桜が、風にのって通り過ぎた。
スバルは表情を変えないままいった。
「俺…前にもいったけど、人と接するのあんまり得意じゃないんだ。
でもなんだかんだいって、イイダ、タカサキ、ナツキの三人には心を許してた。
特にナツキにはな…。でもおまえは俺の傷つくようなことをした。
それからイイダとタカサキも…。おまえらのことは信じてた。
なのに、こんな裏切りあるか?って、正直ショックだった…」
スバルの言うことはもっともだ。
もしかしたら、今回のことで一番傷ついたのは彼かもしれない。
「もう俺は誰にも心を許せなくなっているんだ。
だから、好きだとかそういったことも考えらんない…
はっきりいって、人とはつきあいたくないって気持ちが以前より強くなった」
彼の表情は初めて会った時のように、
冷たく、自分以外の者を排除するような目だった。
「今、ナツキのことは好きだとか嫌いだとか、そんなの全く何も考えられないんだ」
私は今日、卒業する。
この学校から…そして、友人と好きな人と今までの自分に…。
結局、全てを失ってしまった。
もう何もない――…。
私はこれからどうするのだろうか…
目的を失っても、それでも明日はやってくる。
いつまでも、答えを見つけられないままさまよい続けるのだろうか。
この重い後悔と罪を背負いながら。