The moment
     〜Don’t mask your feeling〜



 当日、空はぬけるように青く澄み渡っていた。
ほどよい日の光がぽかぽかと心地よかった。

 遊園地の入り口には、それほど多くはないが、
日曜とあって入園者はそれなりにいた。
私は10分前にそこに着いた。
いつものことながら、辺りを見回すと他のみんなはまだ来ていないようなので、
入口近くにある柱の前で待っていることにした。
近くを通り過ぎる人々を、私はぼーっと見ていた。
はしゃぐ小学生くらいの女の子たち。
お父さん、お母さんと楽しそうに手を繋いでいる子供。
腕を組んで歩いていく恋人たち。
そんな人たちが同じ所に向かって、入口へと歩いていく。
みんなそれぞれの生活があって、それぞれの人生を歩んでいるんだなぁ
と、私はしみじみと考えていた。
なぜそんな事を今改めて感じているかなんて、謎としかいいようがなかった。
もしかしたら、これからここに来る三人と別々の道を歩んでいくことになるのを…
あと何回四人でいられるかを、高三の春ということで考えてしまったのかもしれない。
…それぞれの歩むべき道。
なんだかしんみりした気持ちになった。
「オハヨ」
「ひゃあ!?」
考え事をしていた最中に突然声をかけられたので、私は驚いてしまった。
目の前にはスバルの顔があったので、さらに驚いた。
「…こっちが驚くっつーの」
本人はそう言ったが、いつもと同じクールな顔つきで、
そんな様子はどこにもなかった。
「ご、ごめんなさい。考え事してたもんだから」
私が慌ててスバルに言うと「ふーん」という顔をされた。
「まだ、ユウユとカツは来てないみたい」
「イイダはともかく…タカサキはめずらしいな」
彼はそう言って私の左側に立った。
私の左半身が妙にぴりぴりと緊張していた。
今まで横に立つことなんて、何度もあったのに…
彼のことに関しては、何一つ慣れることはなかった。
いつも胸の高鳴りが止められずにいた。
しめつけられるように苦しかった…。
私のこと…どう思っているんだろ…

 ユウユとカツが来たのは、それから五分ばかり後のこと。
待ち合わせ時間ぴったりであった。
入口から入って、カツとスバルが何を乗るか口論していた間(といっても、
カツが一人で騒いでいたようなもんだけど…)、私はユウユに「今日はめずらしく遅かったね」
と話しかけた。
「うん、ちょっと電車の時間を間違えちゃって」
私が笑って答えると、ユウユは何かをぼそっと言った。
「え…?ユウ…」
「私、あれ乗りたい!」
私の言葉を遮るように、ユウユはそう言って前を行くカツとスバルの間に入っていった。
私はややぼーぜんとしていた。
よく聞こえなかったけど…
――スバルトナツキガフタリキリニナルナラ
           モットハヤククレバヨカッタ―――…
たぶん、彼女はこう言った。
いつも四人で出かけるとき、私がだいたい十分前に着いて、
少し経ってからユウユがくる。
五分前になるとスバルがやってきて、ギリギリにカツが来る。
そういえば、待ち合わせのときにスバルと私が二人きりになったのは、
今日が初めてだった。
今のユウユの言葉からすると、今まで時間を見計らってきていた…?
スバルと私を二人きりにさせたくなかっ…た?
まさかと思いつつ、否定できない可能性に私は混乱し始めた。
もやもやした気持ちになりそうなのを止めたのはカツだった。
「どうした?行くぞ」
そう言って私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
まるで、考えていたことを頭から追い払うように。
スバルとユウユは先を歩いていた。
「あ、ああ…ごめんごめん。行こう!」
とりあえず、楽しく遊びに来ているのだから今は深く考えるのはやめよう。
というように、私は思いっきり笑顔で答えた。

 「あー…なんか腹が減ったなぁ」
私たちがいくつか乗り物に乗ってから、カツが言った。
時計をみると一時をまわっていた。
あれだけ乗ってはしゃいでいればお腹も空くだろう。
「あっちに食べるとこがあるみたい」
「でもなんか混んでそうじゃね? 昼過ぎたってのに、ホラ結構並んでる。
 つーか、しょぼい飯しかなさそう」
「じゃあどうするっていうのよ?あそこしかないんだからワガママ言うな!」
そんなユウユとカツのやりとりをみながら、私はそれをだそうか迷っていた。
私の様子が妙だと思ったスバルが「どうした?」と声をかけていた。
私はまごつきながらしばらく答えないでいた。
スバルは首をかしげていた。
「あの…ね、お弁当…つくってきたの」
私は小さな声で言ったつもりだったが、カツがものすごい勢いで反応してきた。
「マジ!?」
「う、うん。サンドウィッチなんだけど…今日日曜だし、
 人で混んでて食べる所がなかったらこまるなぁと思って」
「うっわー気が利く〜!
 あ、あっちのベンチとテーブルがあいてるからあそこで食べようぜ!」
カツは、はりきって席を取りにいった。
私たちも行こうとすると、私の肩が急に軽くなった。
「けっこー重いな、コレ」
スバルがお弁当の入った私のカバンを持ってくれたのだ。
「あ、いいよ!私、持って…」
「こんなにたくさん、ご苦労様」
スバルは私の言葉を遮って、頭をなでてくれた。
そして、カツが騒ぎながら待っているベンチの方へ荷物を持っていってくれた。
私は彼の背を見ながら、その場から動けなくなった。
今、自分の顔がものすごく赤くなっていることが、鏡をみなくてもわかった。
身体中から…私の全てからスバルへの気持ちがあふれだしていた。
そんな私を我に返らせたように、後ろにいたユウユが声をかけてきた。
「言ってくれれば、私も半分つくってきたのに」
表情はとても笑顔だった…のに、言葉はとても冷たく感じられた。
「ご…ごめん」
私は喉の奥から声をだした。
「…いいのよ、べつに。行きましょ」
今日のユウユは一体…どうしてしまったのだろう。
私に対して、いつもと違う。
あんな事、言う子じゃないのに…

 私がつくってきたサンドウィッチと玉子焼き、からあげ、
ポテトサラダをみんなで食べてしまい、
一息ついたところでまた何か乗ろうということになった。
「午後は絶叫系を乗りまくらない?」
ユウユが提案したことに、私たち三人は賛成し、
「じゃ、最初あれに行くか!」
と、カツが指した所に行くことにした。
その乗りものはジェットコースターで、最後に水の中に落ちるというものだった。
前にカツとユウユが、その後ろにスバルと私が乗った。
乗りものが速いスピードで落ちたり、回ったりするより恐さより、
隣にスバルがいるということがやたら気になってしまった…が、
しばらくして、やっぱりその乗りものが恐くなった。
私は絶叫系は嫌いじゃないし、なんとか乗れるけど、苦手なのだ。
恐くてぎゅっと目をつぶって、身を縮めてしまった。
つぶっていた目を少し開け、隣にいたスバルをちらっと見た。
彼はいつもの様にクールな顔つきで、涼しい顔をして、
ジェットコースターを平然と乗っていた。
彼に苦手なものとかってないのかな…と、私は改めて思った。

 それを乗り終えてから、同じのにもう2回乗った。
それからまた別のものに乗って、そして私は限界にきていた。
昨夜、楽しみにしすぎてなかなか寝付けず、
その上朝はお弁当をつくるために早起きをした。
寝不足のせいか、酔いまくってしまった。
本当は休みたいところだが、できなかった。
私が乗らなければ三人でいくことになって、2人、1人で乗ることになってしまうから、
その一人になった人が私のせいでかわいそうな思いをしなければならない。
一人で乗るのは結構寂しいものだ。
そう考えると悪い気がして、ちょっと休んできたいとは言いにくかった。
なんてあれこれ考えながら、みんなの少し後ろを歩いていると、
「どうした?」
と、スバルが声をかけてきた。
「え…なんでもないよ?」
そう答えたにも関わらず、
「顔色、悪いぞ?酔ったか?」
と言って、心配そうな顔でのぞいてきた。
すると私の手をにぎってきた。
あまりに突然のことに私は驚いた。
そして私が何かを言う暇もなく、
スバルは前を歩いていたユウユとカツに声をかけた。
「こいつ、具合悪そうだから休ませてくる。
 おまえら二人で乗ってこいよ。
 6時になったら昼食ったとこに集合なっ」
「お、おい?スバル!」
カツが呼び止めていたのを無視して、
スバルは私の手を引っ張っていった。
やや強引な気もしたけど、全然嫌じゃなかった。
私はとまどいながらも、彼にひかれるままついていった――…


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