The moment
     〜Don’t mask your feeling〜

 

 「はい、これ飲めよ」
「あ…ありがとう」
スバルは私をベンチに座らせ、自分と私の分のウーロン茶を買ってきてくれた。
彼はテーブルをはさんで私の向かい側に座り、
一口か二口ウーロン茶を飲むと、静かにコップをおいた。
「あ…の、ごめんね?」
私はスバルに謝った。
「べつにいいよ、気にしなくて。
 …でもめずらしいな。ナツキが酔うなんて。
 いつも平気だったじゃん?」
その言葉に私は返事のしようがなかった。
わざわざお弁当をつくるために早起きして、酔ってしまった…なんて。
酔うくらいならお弁当なんてよかったのにと、思われたくはなかった。
私が勝手にさてきたことが、こうして迷惑をかけることになってしまって、
本当に申し訳ない気持ちでいた。
「無理して、あんなにお弁当をつくるからだよ」
スバルに言われて、私ははっと顔を上げた。
「うまかったからこっちは感謝してるけど、
 他人のこと考えるよりまず、自分の体調のこと優先しなきゃ」
一瞬、怒られているのかと思った…が、
彼は優しい目を私に向けていた。
「そ、そうだね…でもなんか、はりきっちゃって…」
私は恥ずかしがりながら、少し下を向いた。
「サンキュ…」
スバルの笑顔に胸がしめつけられた。
私はその笑顔に答えるように笑い返した。
きれいな青空。ぽかぽかの日の下で二人きり。
私の前に彼がいて、彼の前に私がいる。
お互い笑顔で…すごい幸せ…
スバルのことすごく…すごく好きだけど…言えない。
言えないよ…。
だってこーゆーの…ナシでしょ?
もし私がスバルに告白して、フラれたら…きっと、
四人のグループの中で気まずくなっちゃう…
私一人のせいで、今の四人が壊れてしまったら…考えただけで恐いよ…
これが、グループ内の暗黙のルール…
だからスバルが好き…だなんて…いえないよ。
そんなことを考えていたら、ふっと私の笑顔に力がなくなった気がした。
「…ナツキ…?」
私の変化にスバルがふと笑うのをやめた。
「う…ううん、なんでもないっ。
 それより、本当にごめんね。
 私のせいでみんなで乗れなくなって…
 あーゆー絶叫系のもっといっぱい乗りたかったでしょ?」
私がまた笑顔をつくりスバルをみると、
彼は手を顔にあて、ため息をついた。
私はきょとんとしてしまった…。
何か悪いことを言ってしまったかと、私は黙るしかなかった。
しばらくして、スバルが重そうに口を開けた。
「俺…さぁ…実は、あーゆーの…ダメ」
そう言って、ため息まじりに崩れたスバルの言葉を私は理解できなかった。
「…は?あーゆーのって…ジェットコースターとか…そーゆーの?」
スバルは私の質問に頭をかかえながら、小さくうなずいた。
「だ…って、今まで平然と乗っていたじゃない!?
 さっきだって全然平気そうだったし」
私は驚きながら言った。
「…フリしてただけ…」
彼はぽそっと言った。
私はなんだかおかしくなってしまった。
やっぱりスバルにも苦手なものはあったんだ…という新発見と安心感。
意外なかわいらしさに笑いがこみあげてきた。
「笑うなよ…」
スバルは顔を赤くしながら肘をついた。
こんな彼は初めてで、余計におかしくなってしまった。
「ご、ごめん。だって、今まで『フリしてた』だなんて…
 大変だったろうなぁって…。
 すっごいクールな顔してたのに、実はダメだったなんて…!」
私は悪いと思いつつ、笑いすぎて涙目になっていた。
「…ナツキ、笑いすぎ」
とまらない私に仕方がないと言ったかんじでスバルが言った。
こらえずにはいられなかった。
彼の見えなかった部分がこうして見えて、
嬉しさのあまり、顔が緩んでしょうがなかった。
「だってよ…俺が乗らなかったら一人で乗るやつがでるだろ?
 だから俺は…。それに男が乗らないなんて、なんかかっこわる…」
少しいじけたようにスバルが言った。
私は「えらかったね」とスバルの頭をなでた。
「あのまんまずっと乗り続けることになったら、
 結構限界になってたかもしんないし…」
スバルはうつむいたまま言ってから、顔を少しあげた。
するとなでていた私の手をつかんだ。
それからまるで「ありがとう」といった表情をした。
「6時まで時間あるし…何か乗ろうか?」
スバルは私の手を握ったまま立ち上がった。
そして「あんまこわくないやつね」と付け加えていった。
私はぷっと笑って、
「うん!」
と答えた。
彼に握られた手が…あつかった…。

 それから私たちはいろんなものに乗った。
スバルの言ったとおり『あんまこわくないやつ』を。
隣にはスバルがいて、すごく楽しかった。
周りから二人でいるのを見たら、私たちは恋人同士に見えるの…かな?
どうせなら恋人として二人でここに来たかった。
思わずでた本音に私は苦笑した。
そんなの無理に決まってるのに。
だから今のこの時だけ…この時だけを私にください。

 「ひゃーかわいい!」
私たちは遊園地内にあったゲームセンターにいた。
その中にあったUFOキャッチャーの景品の、
うさぎのぬいぐるみに私は心を捕らわれた。
「つれて帰りたい…」
私がガラスにはりついてどうしようかとやっていると、
スバルが「とってやる」と言ってくれた。
百円玉を入れ、ボタンを押す。緊張の一瞬…。
スバルと私はごくりとつばをのんだ…。
そのうさぎのぬいぐるみは少し落ちそうだったが、
危ないながらも運ばれていく。
「よし、そのまま」
と、つぶやいた彼の横顔がまるで少年のようだった。
私は思わずその顔をじっと眺めてしまった。
「やった!ほら、ナツキ。とれたぞ!」
スバルの喜んだ声に、はっと我に返った。
スバルはぬいぐるみを取り出し、「ほら」と私の目の前にさしだした。
「え…?」
「いいんだよ。ナツキのやるために取ったんだから」
少し照れながら彼は言った。
私はゆっくりと手を伸ばし、ぬいぐるみを受け取った。
「ありがとう…」
彼は満足気に笑った。
そして私たちはゲームセンターを後にした。
「もう…あんま時間ないな…」
時計は5時30分を過ぎていた。
「最後にあれ…乗るか?」
スバルが指した先は…観覧車だった…。

 「では、ごゆっくりお楽しみ下さい」
そう言って係員はドアを閉め、鍵をかけた。
スバルは私の前に座った。
二人でこうして観覧車に乗れるなんて…夢にも思わなかった。
しばらく沈黙が続いた。
やっぱり二人で観覧車に乗るなんて失敗だったかな…
と少し後悔をしながらも、その沈黙が心地良いとも感じていた。
だんだん上にあがっていくにつれ、外の景色が見渡せるようになっていった。
どこまでも続く建物の波がゆっくりと夜にのまれようとしている。
向こうの方に日が沈みかけているのが見えた。
「うわー…すごいいい眺め…」
私は窓から景色をじっと見つめていた。
頂上に近づき始めた時だった。
今まで黙っていたスバルが突然、口を開いた。
「…隣にいってもいい…?」
「…え…?」
私が返事をしないうちにスバルは私の隣に座ってきた。
もう固まるしかなかった。
狭い密室の観覧車の中、私の隣にスバルが座っている。
それだけで思考回路は爆発寸前だった。
「今日疲れたけど、楽しかったな…」
スバルがそう言ったので、私が「うん」と答えようとした時だった。
「ひゃあぁ!?…あ、あの…」
いきなりスバルの頭が私の肩によりかかってきた。
「…ス…スバル…?」
「少し…このままで…」
彼は目を閉じて、静かに言った。
私はそれに肯定するかのように彼の頭によりかかった。
二人の時がゆっくりと流れていった。

 観覧車を降りてユウユとカツとの待ち合わせ場所に行く途中、
お土産やさんみたいなところがあった。
私はそこに売っていたロザリオ風のペンダントに目がとまった。
欲しいなとは思ったが、わざわざ遊園地にきてまでペンダントを自分に買うなんて…
少し虚しいものも感じたので、少し立ち止まって見てからまた歩き出した。
「いいの…?何か買ってく?」
「あ…ううん、いいのいいの」
私がそう言うと売店が目に入ってきた。
「のどが渇いたから飲み物買って来るね。
 スバルはなにがいい?」
「あ、いや…いいよ。一緒にいく」
「でもさっき買ってもらったし…私が買いにいくついでに…」
「いや…」
スバルは言いかけてから少し何か考えていた。それから、
「じゃあ、ウーロン茶で…」
と言った。
「わかった、ここで待ってて」
私は売店に向かった。
戻ってくるとスバルがさっきのお土産屋から出てきた。
「何か買ったの?」
と聞くと、
「うん、ちょっと…ね」
そう答えた。
私は少し様子のおかしい彼に疑問を持ちながらもそれ以上はなにも聞かずに、
買ってきたジュースを渡した。


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