The moment
     〜Don’t mask your feeling〜

 

 待ち合わせの場所にいくと、ユウユとカツがいた。
私たちが飲んでいたジュースを見ると、カツが飛んできた。
「俺の分はっ!?」
「ない」
はっきり言ったスバルに「俺の〜俺の〜」とカツがすがりついた。
「あ…私、買ってくるよ」
私が行こうとすると、
「いい、俺とイイダで行ってくる。ほら、いくぞ」
と、スバルはカツをつれていってしまった。
そのまま私が立っているとベンチに座っていたユウユが、
「座れば?」
と言った。
私は「…うん」と小さく答え、ユウユの前に座った。
しばらくお互いに黙っていた。
今日のユウユはなんだか恐い。
見えない威圧感が空気をピリピリさせていた。
するとユウユが声をかけてきた。
「ねぇ…」
「なに?」
ユウユは少しためらっていたが、意を決したように話し始めた。
「…単刀直入に聞くけど、ナツキはスバルのこと好きなの?」
何を言い出すのかと思いきや、私はその質問に固まってしまった。
そのまま素直に答えるべきか…
それとも黙っているべきか…
そんなことを考えていたはずなのに、とっさに
「そ、そんなことないよ!」
と答えてしまった。
「本当に?」
「…うん」
「本当ね!?」
「うん」
ユウユはふう…とため息をついて、
「なんだ…なら…いいわね」
私を見て言った。次の瞬間。
「私、スバルのことが好きなの」
私は再び固まってしまった。
と、突然すぎた。
っていうか、私はいつもユウユはカツといたから、
てっきりカツのこと…と思っていた。
でもよく考えてみれば、
朝とか今日一日の彼女の言動はスバルが好きだからこそなのかもしれない。
ユウユは続けていった。
「私、彼とつきあいたいの。高校最後の夏だし、
 お友達四人でスバルと遊ぶより、恋人として一緒にいたいの。
 今までナツキとスバルがお互いに好きなのかもって思ったこともあったけど、
  違うよね?今日も別行動した時、何もなかった…でしょ?」
「うん…」
「あ、やっぱり?だから私、告白したいのよ」
ユウユに言われて気がついた…
私たち、今まで二人きりだった…でも、恋人らしいことは何もなかった…
そりゃあ観覧車の中でのことがあるけど、
あれは単にスバルが疲れてやっただけのことだし…
もしスバルが私のこと…もしも好きなら、
今日二人だったこのチャンスを逃すハズはない。
…やっぱり私は、なんとも思われてなかった…のかなぁ…
「でねぇ…」
ちょっとショックを受けている私をよそに、ユウユは話続けた。
「お願いなんだけど、私とスバルの仲をナツキに協力して欲しいの」
「え…ええー!?私…が?協力って…何を!?」
「うー…んと…そうねぇ、
 例えばなるべく彼と二人っきりにしてくれるとか…そんな感じ?」
はっきり言って嫌だった。
そんな好きな人と自分の仲を取り持つなんて…
「協力してくれないかな〜?お願いっ!ね?
 ナツキだってスバルのことべつに好きじゃないんでしょ?
 お願い、お願い!!」
私はさっき自分が言ったことを後悔した。
素直にスバルを好きだと言ってしまえばこんな事には…
でも、もう今さら遅い…今さら言えない。
ユウユにこんなに頼まれてしまったら断れない。
頭を下げているユウユに私は…
「…わかった…協力する」
と言ってしまった。
ユウユの顔がぱあっと明るくなり、
「ありがとー!!」を連呼しながら私の手を握った。
「今日、ごめんね。てっきり二人のこと誤解してたから、
 ナツキをライバル視しちゃって、いじわるしちゃった」
ユウユはそう謝ってきたが、そんな事どうでもよかった。
私はなんて…なんてバカなんだろう…
スバルとユウユの仲を取り持つ役を引き受けてしまうなんて…
これから先、私はずっとこのことを後悔し続けるのだ…。

 スバルとカツが戻ってきて、そろそろ帰ることにしようということになった。
私はスバルの顔をまともに見れなくなった…
気まずくなってしまった。
さっきまで二人でいた時間が…まるで嘘のよう。
幸せだったあの時…本当に信じらんない。
今は、彼に恋してはいけなくなった…
自分でそうしてしまったのだ。
今までの私ではいられない…ユウユのために…。
そう思っているそばからスバルと目が合ってしまった。
「あ…ナツ…」
「カツ!さっきは具合悪くなっちゃってゴメンネ」
スバルに声をかけられそうになって、
私は思わずカツに話しかけてしまった。
「あー…平気なの?もう大丈夫?」
「うん。もう平気」
駅までの道のり、私はカツとしゃべり続けた。
でも本当は後ろにいるユウユとスバルが何を話しているのか気になって、
ほとんどカツの話していることは頭に入っていなかった。

 「じゃ、また明日」
「バイバーイ」
スバルだけ別の路線だったので、駅で私たちは別れようとした。
「あ。私、そっちに用があったんだった」
突然ユウユが言った。
「待ってよ、スバル!一緒に帰りましょ」
そう言って自分の腕をスバルの腕にからませた。
あまりにその行動が自然だったので、私は心臓をえぐられた気持ちになった。
「じゃ、またねー」
ユウユは手を振って、すぐに後ろ姿を見せた。
スバルは腕をほどかずに「何の用だよ?」と聞いていた。
二人の会話は次第に聞こえなくなり、
そして姿さえ、人ごみの中へ消えていった…。
二人の行った方を私はぼーっと見ていた。
人の波に押されよろめいた時、受け止めてくれたのはカツだった…。
「俺らも帰ろーぜ」
私は黙ってホームへと歩きだした。

 電車の中でも、カツが私の家まで送ってくれると言った時も、
私は黙っていた。
カツは何も聞かずに側にいてくれた。
悪いと思ったけど、私の頭の中は今日一日を振り返りながら混乱していた。
一言でも口を開いてしまったら私自身、何を言い出すか分からない状態だった。
そして気がつくと、いつの間にか私の家に着いていた。
私は家の前で立ちつくしていた。
「…ナツキ…」
カツが優しく声をかけてくれた…
それが引き金となり、私の目からぽたぽたと涙がこぼれた。
あふれだすのを止めることができず、あとはそのまま…崩れるだけだった。
「…バカみたい。本当に最低だよ…。こんな私なんて…キライ。
 後悔するなら…後悔するならあんなこと…言わなければよかっ…た…」
泣きながら話していたので、ほとんど声になっていなかったし、
支離滅裂なことを言っていた。
今にも壊れそうな私をカツは何も言わずに抱きしめてくれた。
「何があったかは…知らないケド…さ、元気出して?」
耳元でささやくカツの声はまるで、乾いた私を潤すように全身にいきわたり、
崩れかけた私をつなぎとめてくれた。
カツは私のことを見て、いつになく真剣な目で言った。
「ナツキは自分のことキライって言ったけど、俺は…
 俺はナツキのこと…好きだよ」
その時、カツは私を慰めるためにそう言ったのかと思った。
カツの言った言葉の本当の意味が分からなかった。
むしろ、私の頭の中で理解できる余裕なんかなかった。
何も考えずに私は答えた。
「ありがとう…私もカツのこと大好きだよ」
カツは少し困った顔をして、それからため息まじりに言った。
「まだ…か」
カツは私の涙を拭いて「また明日」と言い残し、帰っていった。
私は自分の部屋に入り、ベットの上にうつぶせになった。
そして今日のことをゆっくりと思い出していった…
スバルと話したこと。
スバルが荷物を持ってくれたこと。
スバルと別行動したこと。
スバルがとってくれたぬいぐるみのこと…
私はぬいぐるみのことを思い出し、そっとかばんからだした。
ふわふわしたうさぎのぬいぐるみを抱えて思い出したことは、
あのときの少年のような彼の横顔。そして、
スバルとの観覧車の中でのこと…
彼によりかかれた肩が…あたたかい…
まだあの感覚が残ってる…
彼の静かな息づかい。
それと、私の頬にかかった彼のサラサラな黒髪…
思い出されることはスバルと一緒に過ごした時ばかり…
幸せな…あたたかい時間…
そして、ユウユの話――…
何度だって後悔する。
自分の愚かさに何度だって…。
きちんと打ち明ければ、こんなことにはならなかった。
ユウユには今までなんだって話せたのに…。
その夜、いつまでもいつまでも涙は流れ続けた。
悪夢にうなされる様に、私は浅い眠りについた。

 だけど、本当の悪夢は次に私が目を開けたときから始まる…。
自分が招いた困難な、不幸な運命。
同時に、四人の気持ちは複雑にからみあっていくのだった。


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