The moment
     〜Don’t mask your feeling〜



 次の日学校に登校し、下駄箱で上履きにはきかえていると、
「ハヨ」と声をかけられた。
見ると…スバルだった。
いつもなら朝から会えて嬉しいハズなのに…ユウユに協力すると言った手前、
なんだか彼とは話してはいけない気がした。
「…オハヨ」
私は彼を一瞬見てから、すぐに目をそらした。
スバルは上履きを下駄箱から出して下に置いた。
「…昨日さぁ…」
「じゃあまた教室で…」
二人が同時に言葉を交わした。
私はスバルの言いかけた続きが聞きたかったが、
何も聞こえなかったフリをしてすたすたと教室へ向かってしまった。
こんな態度をとっていたら、スバルに嫌な思いをさせるのに…
私だって嫌なのに…。
でもこうするしかない…ユウユのために…
こうやっていいわけして、勝手に被害者ぶってる。
本当は、自分がスバルに告白する勇気がないだけなのに…
最低だ…私。

 「オハヨー!ナツキ」
教室に行くとユウユが声をかけてきた。
「あ…オハヨー」
私は少し元気なく言った。
こんなの初めてだった…ユウユを見ることに憂鬱さを感じてしまうなんて。
「どうしたの?元気なくない?昨日遊びすぎて疲れた?
 あっそうそう。昨日といえば、スバルと一緒に帰れて幸せだった〜!」
ユウユが『スバル』という言葉を発するだけでドキッとする。
さらに彼女は私をもっとドキッとさせるようなことを言った。
「そういえば…その時、スバルが『もっと絶叫系の乗りたかった』みたいな事言ってたよぉ?
 ナツキが具合悪そうだからって気をつかったんじゃない?
 後で謝っときなぁ?」
正直、私はショックを受けた。
やっぱりユウユたちと本当はもっと乗りたかったんだ…って。
そういうの苦手って…ウソだったの…?
私のせいでスバルに悪いことしたの?
「…あ、まぁ気にすんな?彼って誰にでも優しいし…って、本人だ!
 私、行ってくるね!」
そういい残して、ユウユはスバルの所へ行ってしまった。
私は自分の席の前で立ちつくしていた…。
足が地面に張り付いたみたいにその場から動けなかった。
昨日はスバルの新発見があったって嬉しかったのに、
それがウソだとわかって…とても悲しかった。
「ハヨー。あっちー…朝練はやっぱキツイわ…しかも、
 昨日さぼったのでこってりしぼられたし…って、ナツキ?
 おーい、ナツキさ〜ん?」
私ははっとした。
「あ…お、おはよ」
「眠いのか?具合悪い?保健室に行くか?」
カツは心配そうな顔をしていた。
「ううん…平気」
手を振って私は答えた。
なんだろ…最近カツは私がちょうど落ち込んでブルーになってる時に、
タイミング良く話しかけてきてくれる。
私、そんなに顔にでちゃってるのかな?
それから先生がくるまで、カツと話し続けた。
そして、その日を境に私はカツの隣にいることが多くなった。
カツが話しかけてくれるというのもあったが、
ユウユとスバルを邪魔しないよう、
四人でいるときだって二人でいられるように、
私はカツと一緒にいるようにした。
そんな日がしばらく続いた…金曜日まで…。
なぜ金曜日までなのかというと、その日の放課後の帰り道、
スバルが私を追ってきてくれたからだ。
カツは部活があり、私たち三人で帰ることになった。
あきらかに自分が邪魔者になるのは目にみえていたので、
この際二人っきりにしてあげようと私は「用があるから」と言って、
さっさと一人で帰った…なのに、彼は私を追いかけて来てくれた。
私が重い足どりで、とぼとぼと帰り道を歩いている時だった。
「ナツキ!」
そう呼ばれて、私は思わず振り返ってしまった。
「ま…待てよ…」
スバルは息をきらして私に近づいてきた。
「ユウユと一緒に帰らなかったの…?」
私は目の前にいる彼を見て言った。
彼は下を向き、呼吸を整えてから言った。
「その前に、俺から質問…おまえ、最近俺のこと避けてない?」
私は言葉を失った。
「俺…なんかしたかよ…?話しかけようとするとすぐに逃げるし、
 ここのところイイダとばかり話して、俺を見ようともしない…」
切なくなった。
私は言いたかった…全部彼に話したかった。
でも…そんなの…
「言えよ、ナツキ…思ってること…」
泣き崩れて、全てを打ち明けたかった。
スバルに私の想いを一つ残らず伝えたかった…だけど…
「…ウソ…ついたの?」
私の口は勝手に言いたかった事とは違うことを話し始めた。
「ウソだったの?ジェットコースターとか嫌いって話」
「…は?」
「だって、ユウユと日曜帰った時にスバルが『もっと絶叫系に乗りたかった』
 って言ってたって聞いたんだもん!」
私の口は止まらなかった。
まるでもう一人の私がしゃべっているかのように…。
「…私、あなたにウソつかれて嫌だったの!
 あなたのこと、一つでも知れて嬉しかったって思ったのに…!」
「待てよ。それ、誤解だっての…」
スバルは私の肩をつかんで、私の暴走を止めた。
「…タカサキと帰った時、確かにその話をした。でも違う。
 俺は…ナツキにウソなんて一つもついてない…
 あーゆー乗り物は苦手だ…」
「…だっ…だって…」
「タカサキが『今日、ナツキと別行動させて悪かった。私がもっと気づいていれば…。
 スバルももっとジェットコースターとか乗りたかったでしょ?』って言うから、
 とっさに苦手だって言えなくて『ああ…残念だったよ』と答えてしまったんだ。
 少し…意地を張ってしまった…」
スバルは少し照れくさそうに言った。
「苦手だって知ってるの、ナツキだけだよ…。
 ウソなんかついてない…」
私は目が点になっていた。
頭の中が真っ白だった。
「…もう一度言うぞ。ナツキだけだ…俺はウソなんかついちゃいない」
私は言葉がでてこなかった。
頭のシンがじんじんしていた。
自分の鼓動が大きく響いていた。
『ナツキにだけだ…』
彼の目にウソはなかった。
思わず目をそらしたくなるほど、彼は真っ直ぐに私の目をみていた。
ウソではなかったことを知れただけでも、私の気持ちは軽くなった。
「…はあぁ…そんなこと気にしてたのか?
 そんぐらいで避けんなよ…あー、でもホントによかった…」
スバルは心から安心した顔をしていた。
「今度からは気になることとかあれば、すぐに言えよ」
そう言うと私の手を引き、「送ってく」と言った。
私はその手をふりほどけなかった。
―ごめん、ユウユ…
そう思いながらも、私は彼の少し後ろを歩いていった。

 私の家の前に着くと、スバルが何かを渡してきた。
「…これ、この前から渡しそびれてたんだけど…」
リボンのかかった小さな赤い箱だった。
私がゆっくりと箱を開けると、中身はロザリオ風のペンダントだった。
「…こっこれ!?」
その見覚えのあるペンダントを見て驚いた。
それは私が遊園地内のお土産屋で見かけたもの。
「ナツキが欲しそうに見てたから、つい買ってしまった…。
 これだろ…?」
いろいろお土産があった中で、私が欲しいものを分かってしまうなんて…
思わず胸がいっぱいになった。
「う、うん…ありがとう…!でもよくわかったね…」
「なんとなくこれかなって…あたっててよかった」
彼はにっこりと笑った。
私はペンダントを眺め、きゅっと握った。
「で、でも悪いよ…もらってばっかで…」
スバルは私を見た。
何か考えついたような顔だった。
「本当に悪いと思ってる…?」
「…うん」
「本当に?」
「うん」
「そうだよなぁ…さっきもなんか誤解されてたし…」
「ご、ごめんって…」
スバルは少し意地悪な目をして私に言った。
「本当に悪いと思ってるのなら、明日の11時に駅前に来て」
「…え!?」
「学校休みだし、用もないだろ?必ず…な!待ってるから!」
やや強引な約束を突きつけてから、スバルは走って帰ってしまった。
私はその場に残され、小さくなっていくスバルの後ろ姿を見つつ、
よく考えてみた…。明日…明日…。
忘れるはずもない。好きな人の誕生日を…。
明日はスバルの誕生日…。
彼は分かっているのか…あたりまえか、自分の誕生日だものね。
ならなおさら…そんな日になんで私を誘ったのだろう…。
なんで…私なんかを…
そんな、期待してしまうよ…。
スバルの意地悪っぽい目つきをした顔がまだ頭に焼き付いている。
自分の顔が赤くほてっているのが、すごく分かった…。


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