The moment
〜Don’t mask your feeling〜
月曜日、いつも通りの朝だった。
空は晴れわたり、雲ひとつない晴天だった。
私は一歩踏み出した。
今までの、嫌な私とはお別れ。
新しいスタートをきろう。 そう思っていた。
そしてスバルに…彼に昨日のことを謝って、ちゃんと事情を話して、
告白しよう…と密かに決めていた。
どんな結果になってもいい。
たとえ、彼の側にいられなくなっても。
ユウユに負けられない…私も頑張らなきゃ。
彼にこの気持ち伝えたい…伝えなくちゃ…
でも、その想いはかなわなかった――…
それは昼休みのことだった…。
私はユウユと一緒にお昼を食べようと捜したが、
彼女の姿は教室のどこにもなかった。
しかたなく一人で食べることにした。
カツは部活の練習に行ってしまったし、
スバルの姿もなかった。
一人で食べるのはものすごく久しぶりのことだった。
私はお弁当の中身を口にする度に、なぜか胸騒ぎがしてしょうがなかった。
この不安がなんなのか全く分からなかった。
しまいには、食べるために動かしていた手を止めてしまった。
その時だった。
ユウユが教室に戻ってきたのだ。
私はユウユに近寄って言った。
「どこいってたの〜?捜したんだから…ユウユ?」
彼女の顔を見ると真っ赤だった。
「ユウユ…?」
私が再び声をかけると彼女は口に手をあて、黙ってしまった。
少しの間があってから彼女はそっと私の腕を引き、
廊下に出るように促した。
「あ…あの…ね…」
ユウユはゆっくり話し始めた。
「実は昨日、スバルに…告白したの…でもその場では返事をくれなくて…。
さっき返事をするからって言われて、ついていったの…そしたら…」
またユウユは黙ってしまった。
私は嫌な予感がした。
この先のことは聞いてはいけない気がした…けど…
「…そしたら?」
彼女は一息ついて言った。
「…スバル、私とつきあってくれるって…」
私の横を通り過ぎる風が、とても大きく感じられた。
たいして吹いていたわけではなかったが、私の体は風を感じていた。
昼休みの終わりを告げる一度目のチャイムが鳴った。
私は動かなかった…。
壁にもたれ座っていた。
頭から足先まで…全てに力が入らなかった。
ユウユからスバルとつきあうことになったと聞かされ、
私は精一杯の笑顔をつくった…
――ヨカッタネ! オメデトウ…――…
心にもないことを言った。
「ありがとう」と顔を赤く染めながらいった彼女はいつもよりかわいく、
女の子らしかった…。
その場からやっとの思いで足を動かし、
気がついたときには屋上で一人…
涙を流していた…
と、突然人影が太陽を遮った。
「もうすぐ授業、始まんぞ」
見上げると、カツがいた。
「…って、何泣いてんだよ!?どした…?」
彼は私の隣に腰を下ろし、私の顔を覗いてきた。
たぶん、私はひどい顔をしていたと思う。
私は彼を突き放すようにいった。
「…なんでもないっ。ほっといて!」
「…でも…」
「いいのっ!ほっといて!!」
私は膝を抱え、顔をうずめた。
もう誰にもかまって欲しくはなかった。
一人になりたかった。
そんな私に彼は、
「ほっとけるワケないないだろ!?
目の前で涙流してるおまえを見て、一人にしておけねーよ!」
と、本当に心配している様子でいった。
正直、ちょっと嬉しかった。
私なんかのこと、こんなに真剣に心配してくれて…。
二度目のチャイムが遠くで聞こえた…。
「…ごめん…せっかく心配してくれたのに、嫌なこと言って…」
鼻をすすり、ふるえた声で私はいった。
そして、自分の前髪をかきあげながら彼を見た。
「この前からおかしい…よね?私…」
力ない笑顔でいった。カツは答えた。
「そう…だな。いつものナツキらしくない…」
「私…らしい…私らしいって何だろ…時々考えちゃう。
臆病で、悲観的で…もっと自分のしたいことは違うのに…
見えないフリして、気持ちを押し殺してる。
最初から無理だって決めつけて、あきらめて逃げてしまう…」
最近の自分の行動を振り返った…。
どれもこれも、自分の望んでいたことではない。
そして最悪の結果を招いてしまった。
全て自分の責任だ…私がいけない…。
こうなって当然だ…。
でも、今さら後悔したって…もう遅い…引き返せない…。
「こんな自分…大嫌い…」
私は吐き捨てるようにいった。
カツはしばらく黙っていたが、一息ついてからいった。
「…俺は、そんなナツキを含めてナツキだと思ってるよ…」
彼は私に優しい目を向けてくれた。
それから、青空を見上げながらまた話し始めた。
「ナツキが自分で嫌だって思うとこたくさんあると思う。
でもそれも自分の一部なんだよ…受け入れてあげなきゃ。
嫌なとこが分かっていれば改善することだってできる。
その分いいとこも見えてくると思うよ。
そして自分らしさに気がついていくんだ…。
嫌なとこも、良いとこも、全部ひっくるめてナツキはナツキだよ…」
再びカツは私の方を向いていった。
「その全部が…ナツキの全てが…俺は好きだ」
私は「え?」という顔をした。
「前にも言った時、ナツキはわからなかったみたいだけど…
俺はナツキが好きだ…俺の言ってる意味、わかるよね?」
私は驚きを隠せなかった。
自分のことばっかりで、全然彼の気持ちに気づいてあげられなかった…。
いつもの少しおちゃらけたカツはいなくて…
私の前には、知らない男の人がいるようだった…。
「あ…あの、私…」
そう言いかけた私にカツは止めた。
「待って、今は返事しないで…NOっていわれそうだし。
それに、俺のこと考えたことなんてなかっただろ?
だから考えてみてよ…俺のこと、男として…」
考える…考えるたって…なにを?
そんないきなり言われても、急には頭をきりかえられなかった。
「ナツキが泣かないように、俺が側にいるから…」
一瞬、その言葉に心が揺らいだ…。
「今週の日曜、ウチの学校で部活の試合がある。
よかったら観に来て…それで試合が終わったら、その時に返事を聞かせて」
その後、二人とも口を閉じたままだった。
お互いにただ、隣にいるだけ…。
とても静かな時間が流れていた。
結局、五時間目はサボってしまった。
私はカツより少し時間をおいて屋上を後にした。
廊下をてくてくと歩いていると、ちょうど向こうからスバルがきた。
二人は少しの距離をとって立ち止まった。
昨日のこともあって気まずかった。
なんだかんだいって今日会うのは初めてだった。
同じクラスなのに、距離的にはあんなに近くにいるのに…
彼はすごく遠くにいる…むしろ私が遠ざけたというべきか。
「…五時間目、サボっただろ…」
彼は静かに言葉を発した。
私は黙っていた。
「ナツ…」
「ユウユと付き合うって…」
彼が次の言葉を発するのを私は遮った。
彼は少し間をおいて、静かに答えた。
「…ああ」
「ユウユに聞いた…よかったね…」
彼は私から視線をそらし、下を向きながら私の方へ歩いてきた。
そして、
「…おかげさまで」
と、言い残して私の横を通り過ぎた。
私はその場に立ち尽くした。
周りの雑音が、私をかき消すようだった…。
これで私の恋は終わった―――…
気持ちをぶつける前に自滅して、勝手に失恋した。
もしもまた好きな人ができたらその時は、こんなことにならないようにしよう。
また、好きな人ができたら…できたら…?
考えられない…スバル以外に好きな人なんて。
そんな人…でも、彼はもういない…。
サヨナラ…スバル… サヨナラ――…