季節が移り変わる。

その度に街も、空も、木々も、人々も変化をみせる。

そうやって表面だけでなく、内面も変わっていくけれど、

唯一変わらないものがあった。

私の心の中にありました。






 四季〜Season〜






 私にはたった一つの言葉が残されていた。
たった一つの言葉が――…。
“来年もまた、この場で一緒に新年を迎えられますように…”
べつにずっと胸に秘め続けて、支えにしてきたわけじゃない。
ただなんとなく、この年の瀬にきてすがりついてみたくなったのだ。

 そして、私は今ここにいる。
その言葉を言われた同じ日、同じ場所に。
一年前と同じ場所に。

 新年を迎えようとする人たちでごったがえしている中、
私はかき消されそうになりながら一人、
弱々しく存在していた。
大きな時計塔の針をじっと見つめながら、
ぼんやりと今年一年のことを思い返していた。

 ほんのり春が訪れる頃に私は愛する人と別れ、
夏には別の人に心動かされ、
秋は過去に捕らわれた。
冬になって全てが凍りついてしまえばよかったのに…
私は今、こうして思い出の場所にいる。

 私は何を期待しているの?
全てはもう、終わっている。
いや、もしかしたら今年一年とともに、
全てを終わらせにきたのかもしれない。

 都合のいい思い込みと淡い期待を、
絶望で否定しようとしてもしきれなかった。
こんなところで一人、何をやっているのかしら…?
なんて、自分を愚かに哀れんでもどこかで満足していて、
これが私の在るべき姿なんだと思った。
今年残り少ない時間を見つめながら、
今日とともに終わりを告げようと、
一つ一つの想いを過去に置き去りにしようとしていた。

 「3、2、1…ハッピーニューイヤー!!」
あたりが明るくなる。
目に映る光景が、去年の光景とダブってしまいそうになった。
また花火が何発も打ち上げられ、
五分程度のセレモニーが終わると同時に、
周囲も落ち着きをとり戻した。
冷めない興奮の中にも、
人々はしっかりと現実に戻っていた。
私だけ、戻れないまま…。

 どれくらいの間、そこに立ちつくしていたのだろう。
たいして時間は経っていないと思うのだけど、
一人でいたせいか、だいぶ時間が流れているような気がした。
いつまでここにいても仕方ないし、
孤独に新年を迎えるようなみじめな思いに浸る必要もない。
私は何かを断ち切ったように、
前に向かうように、
最後に時計塔を見てから背を向けた。
足元を見て、しっかり一歩、一歩踏み出した。
大丈夫…と、自分に言い聞かせるように視線をあげる。
行きかう人々を目にしながら、ふと一人の人に目がとまる。
一瞬、その姿が誰のものなのかわからなかった。
私の記憶とピントが重なった時、
その人は近づいて私の目の前にいた。
お互いに見つめあう。
お互いの存在を確認するように。
「…ど、して?」
私のかすれた声と白い息が宙を舞う。
今度は消えてしまわないようにもう一度、
しっかりとした言葉で言う。
「どうして…どうして寛人がここに?」
その時、今の彼女とここにいるという可能性より、
自分に…という考えが私の頭の中を駆け抜けた。
「…菜穂は、どうしてここにいるの?」
彼が答える代わりに、静かに問いかけてくる。
どうしてなのか…そんなの答えようがない。
私はあなたのたった一言を思い出してここにいる。
…なんて、そんなこと言ったらあなたはどうするの?
彼の表情からはなにも読み取れない。
鼓動だけが速さを増し、
私を冷静でいられなくする。
一年ぶりに見たあなたをまた私の目と頭に焼きつけるように、
ただあなただけをじっと見つめる。
「…ごめんっ」
私は行きかう人にぶつかり、
よろめいて彼の腕にしがみついてしまった。
少し触れただけなのに、
なにか懐かしさのようなものが体を走る。
私はゆっくりと彼から体を離す。
「…誰かと来たの?」
彼が再び私に問いかける。
「ううん…」
私はぎこちなく答える。
「じゃあ、どっかでお茶でもしない?
 ここはすごく寒いから、どこかあたたかい所に行こう」
「うん」
昔、見せてくれていた彼の笑顔と同じだった。
また、私にその笑顔を向けてくれるのですか…?
いつも似ていた私たち。
ここにいる理由も、同じだと思ってもいいですか…?
そんな彼にしかわからない答えを心で探しながら、
私は彼とともに人の流れに沿って歩きだした。


 時には過去を思い出し、立ち止まってしまう。
立ち止まるのはいいかもしれない…でも、
決して後悔してはいけない。
大切なのは、自分の気持ちに素直でいること。
きっといつまでも同じじゃないから。
いつだって季節が変わりゆくように、
環境も、自分自身だって変わってゆくのだから。

 いつでも、輝いた季節を送れますように。





Winter



 
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