朝、吐く息が白い。

身も心も寒さで凍てつく季節――…。

だからあなたのあたたかさが欲しかった。






 冬〜Winter〜






 海の近くにいるせいなのか、
それとも夜のせいなのかわからないけど、
雪でも降りそうな寒い、寒い日だった。
大きな時計塔の針はもう少しで12時を指そうとしている。
今日は大晦日。
新しい年の瞬間を今か今かと落ち着かない人々が、
この場に集まってきている。
その人ごみの中に、私たちもいた。
片手には温かい缶コーヒーを持ち、
もう片方の手はお互いの手をしっかりとつかんでいた。
「そろそろだね…」
彼が白い息を吐きながら、静かに言った。
「うん」
私は逸る気持ちを抑えるかのように、短く答えた。
周囲がざわつき始め、一斉にカウントダウンが始まる。
「3、2、1…ハッピーニューイヤー!!」
あたりが華やかにライトアップされ、
花火が何発か打ち上がった。
私がその光景に見とれていると、
隣にいる彼が握っていた手の力を少し強めた。
思わず彼の方に視線を向ける。
とても優しい笑顔をしていた。
「明けましておめでとう」
彼は私にだけ聞こえる声で言った。
「明けましておめでとう」
私も笑顔とともに返した。
年明けに初めて交わした言葉だった。

 時計塔周辺から人が離れ、まばらになった。
私たち二人はその場に留まり、
近くのベンチに座りながら時計塔を見上げていた。
大きくて太い針がゆっくりと、でも確実に時を刻んでいた。
「今年一年、良い年となりますように」
彼は想いを込めて空中に言葉を投げかけた。
それから私の肩にそっと頭をもたれかけて、
「来年もまた、この場で一緒に新年を迎えられますように…」
と言った。
その彼の一言に私は照れくさくなりながらも同意するように、
彼の頭に自分の頭をもたれかけた。
外はとても寒かったけれど、
彼と一緒にいると体の芯からあたたまるようだった。

 しかし、二人のその想いは叶えることができなくなってしまった。
三月のはじめに、私たちは別れることとなった。
なぜ二人が別れなければいけなかったのか。
なぜこんな結末を迎えなければいけなかったのか。
本当の理由なんかわからない。
ただ、あの時の二人はこうするしかないように思われた。
いつの間にかお互いにズレが生じていて、
それに気づかなかったために、大きなミゾができてしまっていた。
もしかしたら、修復は可能だったのかもしれない。
少なくとも、私は彼のことがとても好きだったから。
だけど修復より別れを選んでしまった。
最後の彼の顔は知らない。
別れ話は電話の最中のことだったから。
彼の声から彼の表情を想像した…が、
想像することはできなかった。

 それから彼と会うことはなかった。
彼は同じ大学の先輩であったけれど、
学科も違ったのでそう滅多に顔を見ることはなくなった。
あぁ、別れるってこういうことなんだ…と思った。
今まで当たり前のようにそばにいた人が、
まるでそれまでのことが幻であったかのように、
存在自体が綺麗に消えてしまう。
私に残されたのは彼との思い出だけで、
他には何も残されていなかった。
私は記憶を辿ってその細部を思い出し、
その余韻に浸る。
気持ちはすぐにその時の状態に戻る。
彼の全てを思い出す。
そして自分のしてきたことを思い出し、
後悔だけが浮かび上がってきた。
でも、今さらしょうがないこと。
どんなに考えても、どんなに想っても、
それらは全部、“終わったこと”で片付けられてしまうのだから。

 別れてから、彼のことをよく考えるようになった。
朝起きてから、大学に行く道のりでも。
授業を受けている時でも、
友達と話している時でも、
遊んでいる時でも。
夜、寝る時でさえも…。
彼は常に私の脳裏にあって、
私はもういない彼を追い続け、
私の中の彼とともにいた。
日常生活に身を置いていて、
自分のためだけに何かを純粋に楽しむことができなくなってしまった。
彼に会いたい。
彼を想う気持ちだけが私を支配し、
その他のことは全て排除された。
こんな過去に捕らわれたままでいいわけがなかった。
でも、どうすることもできなかった。
こんなにもひきずってしまうのは、
こんなにも忘れられずにいたのは、
それだけ彼のことを真剣に好きだったということ。
簡単に忘れられる程、
中途半端な恋をしていたわけじゃない。

 でも、もう彼はいない――…。
私の中に彼はいるけど、
私の目の前にはいなかった。

 雪が舞い降り、静かに積もっていく。
しかし、それもいつかは跡形もなく溶けて消えてしまう。
私の気持ちも、それと同じなのだろうか?






Autumn  Season



 
SEO [PR]  激安 温泉 アルバイト 無料レンタルサーバー ブログ SEO